水納島の魚たち

ゴマハギ

全長 15cm(写真は8cmほどの若魚)

 ゴマハギという、なんともわかりやすくて地味な名前のこの魚、たしかに海中で出会ってもかなり地味だ。

 地味は地味でもオトナの体色にはけっこうバリエーションがあって、上の写真のような濃い目の地に細かい点々があって模様っぽく見えるものもいれば、

 緑っぽさが増しているものもいる。

 群れることはなく、せいぜい2匹で連れ立って岩肌の海藻なんぞをついばんでいることが多く、色が違っていても、フツーにペアになっている。

 春先には体の色を濃くしたペアを観る機会が多い。

 泳ぎっぷりも普段に比べるとかなりアクティブなところをみると、繁殖期に伴う興奮色なのだろうか。

 いずれにしろこれくらいの色の変化だとどれもゴマハギということで落ち着くのだけれど、たまにこういうややこしいものがいる。

 これはどう見てもキイロハギでしょう…

 …と言いたいところながら、キイロハギの稿でも触れているように、ゴマハギの黄色味が強いものとキイロハギの見分け方のわかりやすい指標のひとつが目。

 キイロハギの目は、模様以外の虹彩(黒目の周り)部分も黄色であるのに対し、ゴマハギのそれは赤もしくは褐色になっているという。

 この伝でいうと、先ほどのキイロハギのようなものの目は……

 これは褐色か??

 ちなみにこのポイントには他に間違いなくキイロハギ認定できるものがいて、その子の目は……

 なるほどたしかに、模様以外に濁りが無い…?

 ただしこのれっきとしたキイロハギは、他に仲間がどこにもいないせいか、ノーマルゴマハギに終始つきまとっている。

 ゴマハギノーマル君にはこれといって他に相手がいるようでもなく、このまま2人が禁断の恋を実らせると、フツーにハイブリッドが誕生するのかも。

 実際どうなのかはともかく、オトナにこれほどのカラーバリエーションがあるゴマハギのこと、チビターレ時代にも相当なバラツキがある。

 ちなみに、オトナは地味なゴマハギも、チビターレの頃は体色を問わずたいそう可愛い。

 ヒレナガハギのように背ビレと尻ビレが長く、模様もなかなかエレガント。

 リーフの外ではなかなか出会う機会がないヒレナガハギの幼魚とは違い、ゴマハギの幼魚は、夏場を迎える頃からリーフ際のサンゴの枝間でよく観られるようになる。

 上下のヒレがこれよりももっと短いチビチビチビターレは、カメラを向けるとサンゴの枝間からなかなか出てきてくれないけれど、↑これくらいになるとオドオドしつつもその姿をカメラの前に出してくれる。

 もう少し成長すると……

 さらに少し育つと……

 このままでとどまっていれば、かなりの人気者になっていたことだろう。

 しかしケーキ屋ケンちゃんは、いつまでもケンちゃんではなかった。

 このあとオトナの階段を登り始めるゴマハギは……

 これでも充分カッコいいけれど、やがてまもなくジミーの道を行くことになる。

 水納島ではこのあたりの流れがゴマハギのノーマルなチビターレの頃からの流れなんだけど、随分黄色っぽいチビもいる。

 これよりもさらに黄色いものもいる。

 さらに黄色いものもいる。

 ここまではたとえ黄色っぽくともまだゴマハギ感が全体に漂っているけれど、もはやキイロハギなのでは?というくらいにキレンジャーなチビターレもいる。

 でもオトナ同様目を頼りに見分けるなら、やはりこのチビもゴマハギ……なのだろう。

 色彩以外に違いが無いと言われるゴマハギとキイロハギ。

 もはや本人たちにも区別はついていないのではあるまいか……。

 追記(2020年6月)

 今年(2020年)の初夏はコロナ禍のためにヒマなため、本来であればシーズン中だというのにサンセットの時間帯に潜ることができている。

 実に20年ぶりくらいのサンセットの時間帯、初夏のこの時間帯といえば、数多くの魚たちが繁殖行動を見せてくれる。

 日中はペアなんだかペアじゃないんだかよくわからないアヤフヤなゴマハギたちも、やはり日没前ともなると張り切りまくっていた。

 お腹がポッコリ膨らんでいるメスに近寄っては、全身をブルブルブル……と震わせるのを、何度も繰り返すオス(左)。

 その目は完全にテンパっていて、もうメスしか見えてませんからッ!!的な一心不乱状態だ。

 リーフ際のあちこちでこのようなテンパりゴマハギオスのブルブル泳ぎが観られたのだけれど、この時は結局産卵シーンを観ることができなかった。

 ところが翌日、前日よりも少し時刻を送らせて同じ場所に潜ってみたところ、エントリー早々にゴマハギのカップルが2匹寄り添って中層に向かい、シュッ…とペア産卵をした。

 この日も前日同様、ずっとブルブルブル…泳ぎをしていたのだろうか、それとも実は足掛け2日に渡る事前儀式の果てにたどり着いた産卵の瞬間だったのだろうか。