全長 25cm
サンゴ礁に住まう魚たちのなかには、サンゴが壊滅してしまうと姿を消してしまうものもいる。
それは衣食住をサンゴに頼っている魚たちに顕著だ。
98年の大規模な白化でリーフ上のサンゴが壊滅したあと、テングカワハギやヤリカタギなどサンゴのポリプをエサとしている連中は、その後何年もの間姿を消したままになってしまった。
写真のヒレナガハギは、藻類を主食にしているから、食としてサンゴのポリプは関係ない。
であれば、白化前後に関係なくフツーに観られそうなもの。
ところがヒレナガハギのチビターレは、隠れ家としてサンゴの枝の隙間が欠かせない。
コバンハゼやダルマハゼなどのように100パーセント住環境として頼り切っているわけではないにしても、特に小さな頃は枝間に逃げ込んで難を逃れるチビターレだから、やはりサンゴが激減して以降、しばらくは幼魚の姿をまったく見かけなくなっていた気がする。
リーフ上のサンゴがかなり復活した今は、幼魚に出会う機会も増えている。
サンゴにたどり着いたばかりのチビチビチビターレは、まだ背ビレ尻ビレがさほど伸長しておらず、菱形のヘンテコな形をしている。
これから少し成長すると、背ビレ尻ビレの上下がやや伸びて、腹ビレも多少伸長する。
さらに背ビレと尻ビレは伸びて……
成長を追っている一連の写真のはずなのに、ヒレが伸長するものだから、写真に占める体の割合がどんどん小さくなっていく……。
これくらいヒレが立派になると、当初のようにサンゴの枝間でオドオドドキドキしながら身をひそめる…ということも減ってくる。
ここからさらに成長すると……
かなり存在感のあるフォルムになる(一連の写真はみな別個体です)。
これで上下のヒレの端から端まで8cmくらいで、見事に伸びたヒレをまったく閉じることなく、常時全開で泳いでいる。
このうえオトナになれば、ヒレはいったいどんなことになるんだろう……
…と期待したくなるところながら、体のサイズはさらに大きくなっても、ヒレの割合はもう少し小さくなるようだ。
しかも、子供の頃は常時全開だったのに、オトナになると慎みを身に着けるのか、出し惜しみしているのか、ヒレを閉じるようになる。
落ち着いた色合いになるオトナは20cmちょいくらいのサイズで、たいていの場合ペアで行動している。
幼魚の頃は常時全開だったヒレは、このようにたたんでいることのほうが多い。
オトナだけしかご覧になったことがない方は、いったいこの魚のどこが「ヒレ長」ハギなのか、さっぱりわからないかもしれない。
ずーっと観ていると、ときおり思い出したように上下のヒレを広げてくれることもある。
しかしそれは、ほとんどの場合一瞬で終わるから、アワワ…とカメラを向けても…
…時すでに遅し。
その「一瞬」をキチンと捉えるには、神ワザが必要だ。
長年そのように諦めていたところ、ペアになっているオトナたちは、人前で(?)めったやたらにヒレを広げたりしないマナーを身に着けているようながら、オトナデビューをしたばかりくらいの若い子だと、まだ幼魚時代の名残りがあるのか、けっこう気前よくヒレを広げてくれることを知った(冒頭の写真と同じ子)。
ところで、先ほどの一連のチビターレの写真は、どれもほぼ同時期同ポイントで撮ったもの。
季節風が吹き荒れ、ボートを出せない海況が数日続いた2016年10月のことだ。
セルフダイビングのゲストとともに数日間カモメ岩の浜からビーチエントリーをし、リーフの中で思う存分潜っていた。
すると、ヒレナガハギの幼魚って、こんなにいるものだったっけ?と驚いたほど、パッチ状に点在する枝サンゴ群落を巡るたび、次から次にいろんな成長段階のチビターレと出会うことができた。
毎年この時期のこの場所は、こういう状況なのだろうか。
…という疑問を解決したかった翌年は、10月半ばから台風台風時化台風でそのままなし崩し的にシーズン終了。
それならばと迎えた2018年10月、同じように季節風でボートが出せない日があったので、ゲストとともにカモメ岩の浜から潜ってみた。
すると。
ヒレナガハギチビターレ、まったく1匹も影も形も見えず。
2016年がたまたまだったのか、それとも爆裂ストロング台風のためにリーフ内のサンゴが至るところで崩壊した2018年は、チビターレが遥か彼方に吹っ飛ばされてしまったのか……。
まったくたまたま、2016年のそのタイミングだけがピンポイントでヒレナガハギ・チビターレ祭りだったのだとすれば、実はものすごい千載一遇だったことになる。
はたして真相はいかに。
今年(2019年)の10月もチェックしてみることにしよう。
※追記(2021年9月)
その後何度かチェックしてみたところ、ヒレナガハギチビターレはけっしていないわけではないけれど、2016年秋ほどの密度で出会えてはいない。
やはりあの年は稀に見るフィーバーだったに違いない…。
※追記(2022年11月)
今年(2022年)の秋は、2016年のフィーバーを彷彿させるほど、ヒレナガハギのチビターレがよく目についた。
台風襲来の有無やそのタイミングに大きく左右されているのだろうか…。