全長 120cm
ゴマをまぶしたような体の色合いが名の由来になっているゴマウツボ。
特にきれいなわけでもことさら巨大なわけでもないものの、とにかくどこにでもいるからおなじみになる。
水納島では砂地の根にいることが多く、お気に入りのスペースでのんびりしている様子が見られる。
しかしそこにたどり着くまでの彼は、けっしてのんびりというわけにはいかなかったはず。
というのも、ゴマウツボに限らずウツボ類は根つきの魚たちにとっては外来の闖入者で、特に根の公序良俗安寧秩序を維持しているハタ類からすれば、安易に立ち入りを許すわけにはいかない仇敵でさえある。
なのでゴマウツボが他所から移動してくると…
…実力をもってその侵入を拒もうとする。
もっとも、ゴマウツボはわりと大きなウツボだから、相手がニジハタくらいのサイズだとおとなしく引き下がるわけではなく、なんだかんだと結局無理をとおしてその根に入り込むことのほうが多い。
根に落ち着いたゴマウツボは、他のウツボたちに比べるとかなりの頻度で、エビや魚にクリーニングケアを受けている。
海の中で観る生き物たちの行動は何であれ興味深いものだけど、とりわけクリーニングをしてもらっている様子はお馴染みのシーンといえる。
なかでもこのゴマウツボは、掃除してくれるのであれば誰でもカモンッ!!という懐の広さを見せるので、ゴマウツボを観察するだけで、いろんな生き物のクリーニング行動を観ることができる。
ホンソメワケベラ(の幼魚)にも…
アカシマシラヒゲエビにも…
ソリハシコモンエビにも…
オトヒメエビにも……
そしてホワイトソックスにまで!!
いったいどれほど汚れてるんだろう?ってなくらいに、いつもいろんな生き物にクリーニングしてもらっているゴマウツボなのである。
彼らクリーナーたちの活躍がなかったら、きっとゴマウツボは歯槽膿漏だらけになるに違いない。
クリーナーたちが心地よい施術をしてくれるステキな根を求め、ゴマウツボは今日もゆく。
旅路の果てに、きっと素敵なパートナーが待っている。
ところで、ウツボ類、それもゴマウツボくらいのサイズになる種類は、たいていの場合無類のタコ好きでもある。
いかに普段はダイバーに対して危害を加えることなどないゴマウツボであろうとも、BCのポッケからタコの足がヒラヒラ出ていようものなら、もうダイバーなど眼中には無くなり、タコの気配に誘われてフラフラフラフラと身を乗り出してくるほど。
ある日遊びで潜っていた時のこと、水深20mちょいくらいの根の傍で、ワモンダコを見つけた。
タコを見ると、瞬時にしてダイバーから一島民になってしまうワタシではあるけれど、カメラを持っているし、わりと水深があるし、今はそれなりにタコ備蓄があるし………。
なので、観るだけ観てスルーすべし、と理性は訴えた。
が。
お盆も近いことだし、備蓄はあればあるほど梅酒がシュワッと梅ッシュ!だし…
本能がついつい手を出してしまった。
するとタコは最寄の穴蔵へ避難。
本格的なタコハウスではなかったので、シメシメこれは楽勝だ。
と思ったら。
その穴蔵の中でなにやら騒動が発生している。
ん?
覗いてみると、なんと元からそこにいたらしいゴマウツボが、タコに襲いかかっているではないか!!
こら、ウツボ!!ヒトの獲物を横取りする気かッ!!
急いでタコを救助すべく(?)、ゴマウツボに攻撃を加えようと救いの手を差し伸べたところ…
アガッ!!
あれ?ゴマウツボ、今の今までタコとバトルしてたんじゃなかったの?
いつの間にかフリーになっていた大きな口で、ワタシの救いの手をガブリ…。
いやあ、ゴマウツボに噛まれると強烈に痛いですな。
というか、指を咬まれていたらどうなっていたんだろう??
「私はタコで指を無くしました。」
……かっこ悪すぎ。
というわけでワタシの手には、オロカモノのための大きな刻印が。
歯形くっきり♪
我ながら思わずオマタヒュンッ!!である。
もちろん歯形は手の甲側にもついていた。
上下のアゴの歯形があれば、これで容疑者を特定することが可能だ……しないけど。
イタイイタイと唸りながら浅いほうへ戻るワタシの目から涙がこぼれることはなかったけれど、傷口からは緑色の血(水深が増すと赤色が吸収されるため血が緑色に見える)がジョワジョワと流れ出していたのはいうまでもない。
お天道様の目は、水深20mの海底にまで行き届いているであった。
天網恢恢疎にして漏らさず、ウツボは愚者を見逃さず。
そんなゴマウツボにも小さな子供時代がちゃんとある。
オトナになると凶悪そうな存在になるゴマウツボも、チビターレの頃は……
左下の肌色部分はワタシの人差し指だから、ゴマウツボチビターレは細目のボールペンほど。
こんなチビチビから1mを超えるオトナになるまで、いったい何年かかるんだろう……。