全長 80cm
一部の人気のある種を除くと、日本人で「ウツボが大好き!」というダイバーは少ない。
だからといって、ことさら毛嫌いしているわけでもないから、とりあえず「ふ〜んウツボね…」という扱いで済んでいるウツボたち。
でもハナビラウツボは、本人たちにはなんの罪もないにもかかわらず、不当にガッカリされている可哀そうなウツボだ。
個体によっては花びらのようにも見える白い水玉模様はゴマウツボやドクウツボに比べれば遥かにきれいで、ガッカリされるいわれなどどこにもないはずなのになぜ?
それは、彼らの名前のせい。
ハナビラウツボをゲストに指し示そうとする場合、まずスレートに名前を書いてからということが多い。
するとゲストは、スレート上の「ハナヒ」まで目が行った時点で、
「ハナヒゲウツボ!!」
と目を輝かせてしまう。
すでに紹介しているとおり、ハナヒゲウツボはそのウツボらしからぬ可憐な美しさで多くのダイバーを魅了しており、観たいと願うゲストも多い。
ハナヒゲウツボを観たい!と思っている方に「ハナビラウツボ」という文字がちゃんと脳内深部まで届くはずはなく、瞬時に「ハナヒゲウツボ」と脳内変換されてしまうのである。
そしてヨロコビも束の間、実はハナビラウツボであると知ることになるゲスト。
そんなわけで、たいていの場合ガッカリされるハナビラウツボ君なのであった。
さて、そんなハナビラウツボは、リーフ上からリーフ際のサンゴ礫が転がるゾーンくらいまでの、ごく浅いところで見かけることが多い。
礫底にいるとパッとしないけれど、群生するサンゴの隙間から身を乗り出していることも多く、その様子はけっこうサマになる。
特にハナヤサイサンゴの仲間のそばにいると、ハナビラウツボの水玉模様にもちゃんと意味があるような気がしてくる。
なにげに隠蔽効果抜群。
ハナビラウツボはわりと個体数は多いから見かける頻度も高く、ホンソメワケベラなどにクリーニングしてもらっている様子もちょくちょく観察できる。
水玉模様のウツボは他にもいるけれど、ハナビラウツボの口の中は、「〜♪白い歯っていいなホワイト&ホワイト」状態。
ウツボの仲間は種類多しといえど、口内が模様無しの純白であるウツボはハナビラウツボのほかにはいない。
ホンソメワケベラをはじめとする、各種クリーナーたちのデンタルケアのおかげに違いない。
このようにケアをしてくれる魚ならいいけれど、どこへ行こうとよそ者扱いされて毛嫌いされるウツボ類、それもハナビラウツボのようにリーフ際やリーフ上にいるとなると、他の魚の目に触れることも多くなる。
親の仇のようにウツボ類を嫌うニジハタに睨まれようものなら……
意味もなく幅寄せされて、一時的に行動の自由を失う。
目を付けられる相手は、ハタばかりではない。
目の前を通りかかっただけのフエヤッコダイにさえ……
相当バカにされている。
居心地のいい身の置き場を求め、リーフ上や岩壁をスルスル移動しているときも、やたらとイチャモンをつけられるハナビラウツボ。
でも、彼らにだってシアワセのひとときはある。
不遇の身を互いに慰めあうかのように、ひっそりとデートを楽しんでいたカップル(多分)であった。
ところで、こうしてハナビラウツボを何匹か見てみると、その水玉模様の雰囲気にはけっこうバリエーションがあることがわかる。
成長段階によるのか、周囲の環境によるのかわからないけど、なかにはこういうタイプもいる。
このように白点が目だないほど黒っぽくなっているものがいるかと思えば…
白点ひとつひとつが大きく、全体的に白っぽく見えるものもいる。
最初の写真と見比べると、とても同じ種類の魚だとは思えないけれど、やはり口内は純白。
ハナビラウツボってことでまず間違いないだろう。
もはや「白点」ではなく、白地に黒の虫食い模様になっているものもいる。
このウツボの口の中まで確認できたわけではないけれど、図鑑か何かでこれもハナビラウツボとされていたのを見たことがある。
そもそもこの柄が「花びら」の名の由来なんじゃなかったっけか……。
この虫食い模様タイプが大きくなると、虫食い模様が一段と「虫食い」になってくるらしい。
こうなるともはや「白いウツボ」だ。
それにしてもバリエーションが多いハナビラウツボ。
他の魚にいじめられすぎて、目立たないように工夫しているのだろうか?
ちなみに小さい頃はこんな感じ。
どれくらい小さいかというと……
ワタシの人差し指よりも細い。
そんなに小さくても、やっぱり口の中は真っ白。
そしてやっぱり……
子供の頃からハタにいじめられているのだった。
体の色を変えたくなる気持ちもわかります…。