全長 8cm
水納島の白い砂底を見渡すと、白地に茶系の縞々模様の共生ハゼたちがそこらじゅうにいる。
ことさら共生ハゼに興味があるわけではない方がご覧になると、それらはすべて同じ「ハゼ」扱いをされているかもしれない。
そこで一歩踏み込んで注視してみると、それぞれにちゃんと違いがあることに気づく。
このハチマキダテハゼは、その名のとおり、鉢巻をしているかのような位置にラインが入っているのが特徴だ。
他所の海ではどうか知らないけれど、実はこのハチマキダテハゼ、水納島ではそれほど多くはない。
浅いところではまず見られず、ヤシャハゼやヤノダテハゼなどがウジャウジャいるようなところでは観たことがない。
水深20mよりも深い砂地にいる傾向があるから、それで個体数が多くないとなると、出会う機会はかなり限られてくる。
ところが不思議なことに、そんなハチマキダテハゼがなぜだかよく観られる場所がある。
このようにたいていペアでいるものの、(おそらく)オスの警戒心はやたらと強く、すぐに引っ込んでしまうから残された(おそらく)メスが1匹だけ、になることが多い。
そこで観ているかぎりでは、彼らはもっぱらニシキテッポウエビをパートナーにしているようだ。
ダイバーがすぐ近くまで寄っているにもかかわらず、エビちゃんがここまで巣穴から出ているところをみると、メス(推定)は気が大きく、警戒心もさほど強くはないのかもしれない。
おかげで、シャッとしたそのフォルムをじっくり眺めさせてもらえる。
白地に縞々のダテハゼ類とひとまとめにしてしまうとたくさんいるように思えるけれど、実は少ないハチマキダテハゼ。
そんなハチマキダテハゼに、これまた水納島では数少ないリュウキュウハナハゼが居候していることもある。
「少ない」と「少ない」が出会うとなると、確率的には「レア」になるから、これはこれでかなり稀少なシーンかもしれない。
せっかく出会っているのに気付かずスルー、なんてことがないよう、たくさんいる他種との区別をお忘れなく♪
※追記(2025年11月)
本文中でも紹介しているように、ハチマキダテハゼはペアでいるところをよく目にするはずなんだけど、これまで見かけていた時はたいていゲストをご案内中だったからか、ハチマキダテハゼのペアの写真が手元にほとんどないことに気がついた。
そこで今年はハチマキダテハゼがいるポイントを訪れるたびに、ペアでいるところを撮ろうと意識していた甲斐あって、けっこうペアの様子を観ることができた。
このあたりで観られるハチマキダテハゼのパートナーはニシキテッポウエビで、いつもいいシゴトをしている。
エビちゃんが作業をしている間、ハチマキペアは互いのポジションを変えつつも、ずっとこのように巣穴入り口付近に佇んでいたのだけれど、ずっと観ていたところ、小ぶりなほうが急にアヤシイ動きになった。
突如クルリと向きを変えたかと思ったら、そのままスルスル…と移動し始めたのだ。
すると大きいほうも誘われるように動き始めて…
…小さいほうについてきた。
何すんだろう…?
上の写真で小さいほうの目線の先には、砂底に小さな窪みがあって、小さいほうはそこにご執心の様子。
そしてその窪みを塞ぐかのように鎮座した小さいほう。
でもやっぱり窪みが気になるようで、再び覗きこむ。
なんだか穴の中へ「もしも〜し!」と呼び掛けているかのよう…
…と思ったら、ホントに中から応答が!
え?
この細長いものって、ひょっとして……
…ニシキテッポウエビだった!
エビが出てきた途端、なぜだか興奮してヒレを全開にし、勝どきを上げるかのようなポーズをする小さいほう…
…って、あれ?小さいほうがオスだったの??
このあと、どういうわけか小さいほうは元の巣穴入り口に戻っていった。
大きいほうもそのあとについていくのかな…
…と思いきや、そのままスルスル…と前進し、
こっちのエビちゃんの見張りになっちゃった。
そのためこの時のハチマキ夫妻は、それぞれの巣穴の入口で別居状態。
同じエビがそれぞれの出入り口からかわりばんこに出ているのかなと当初は思ったんだけど、観ていると同時に双方からエビが出ている(小さな画像じゃわかりづらいけれど、右側も触角が出てます)。
これはつまり、ニシキテッポウエビ夫妻が勝手口を作ろうと思い立ち、別の場所に新たな出入り口を設けたのだろうか。
それともエビ同士はまったくの他人で、もともとこのハチマキ夫妻は別居していて、たまに気が向くと同居しているんだろうか?
うーむ……まったくわからん。
でもその後ほどなくして、勝手口(?)にいた大きいほうは、勝手口近くの砂底の何かに激しくアタックしたかと思うと…
…やがて元の巣穴に戻っていき、ナニゴトも無かったかのごとく佇むハチマキ夫婦。
「元の鞘に収まる」とはこのことか。
それにしても、なんだったんだ、一連の動きは…。
画像枚数はやたらと費やしつつも、以上は時間にしてほんの2〜3分ほどの話だから、ハチマキ夫妻にとっては束の間の戯れだったのかもしれないけれど、エビちゃんたちはエビちゃんたちで働き者夫婦だから、ひょっとするとニシキテッポウエビ夫妻のほうが戯れているのかも。
ところで、ハチマキダテハゼがペアで暮らしているのは水温が高い夏の間だけだとばかり思っていたところ、今春(2025年)、まだ水温が20度ほどしかない冷たい季節からすでに、ペアでいる様子が観られた。
ただ、水温が低いと警戒心が強まるため(より早く巣穴に引っ込む)、遠目にしか観ていられなかったのだけど、一度巣穴に逃げ込んだオスが再び出てきた時には、やけに興奮モードになっていた。
それどころか興奮状態のまま、(おそらく)メスの上に乗っかって反対側にポジションチェンジ。
遠すぎてストロボ光がちゃんと当たっていないため、かなり色味を無理矢理補正しているってことを差し引いても、尻ビレあたりの色が随分普段とは異なっていることがわかる。
これはやっぱり、メスに対するオスの猛烈アピールってことなのだろうか。
ってことは、恋の始まり?
こんなに水温が低い季節から、彼らはアツアツカップルになっていたとは…。
気合の鉢巻も伊達ではなかった。