水納島の魚たち

ヤノダテハゼ

全長 9cm

 数多いダテハゼの仲間のなかで、尾ビレに注目を集めさせたのは、彼らヤノダテハゼをおいてほかにはいない。

 とはいえその最大の特徴が尾ビレの美しさであるということは、尾ビレが見えないと、本人がどんなに気張った顔をしても、ただのダテハゼになってしまう、ということでもある。

 見慣れてしまえば、たとえ尾ビレが見えずとも縞々の色合いやボンヤリ感で、ヤノダテハゼだということはすぐにわかる。

 でも見慣れていないゲストの場合、尾ビレが見えないヤノダテハゼと、その周りにいるヒメダテハゼとの違いはハッキリしない。

 そのため我々がヤノダテハゼを指し示してご案内しても、その手前にいるヒメダテハゼにカメラを向けていたりすることもままある。

 ポイントにもよるけれど、水納島ではヤシャハゼ同様にヤノダテハゼも数多く、ヤシャハゼの姿が数多く見えるようなところならば、同じようにヤノダテハゼもそこらじゅうにいるといっても過言ではない。

 なので、尾ビレが巣穴に隠れてしまっている子を出てきてくれるまでジッと待つ必要はなく、ちょっと周囲に目を向ければ、全身を出してリラックスしている子にすぐさま出会える。

 ただし尾ビレまで巣穴から出してリラックスしている状態の子であっても、ウカツに近寄るとヤノダテハゼはジリジリと後退し、肝心の尾ビレを巣穴の中に隠してしまうポジションになってしまう。

 その美しい尾ビレを観たければ、遠目からその存在を察知したあと、ゆるりゆるりと接近しなければならない。

 ヤシャハゼやヒレナガネジリンボウが巣穴の上でホバリングしていることが多いのに対し、ヤノダテハゼの行動範囲はかなり広い。

 1m四方に複数匹いるようなところでは、50p以上は離れている他の個体の巣穴付近まで出張っているものもいる。

 雌雄のデートなのかオス同士の勢力争いなのかはわからないけど、けっこういがみ合っているように見えることがよくある。

 メスへの求愛なのだったら、そもそも一緒に住んでいればいいわけだから、きっと縄張り争いかなにかなのだろう。

 一緒にいるからペアなのかと思って観ていると…

 突如威嚇的全身ヒレおっぴろげ状態になって、傍らのもう1匹に対してオラオラオラと威圧したかと思ったら、そのままシューッと、離れたところにある自分の巣穴に帰っていった。

 メスへの求愛なのか、オス同士のケンカなのか。

 ひとつの巣穴に2匹でいれば、それは間違いなくペアだ。

 ただ、ヤシャハゼやヒレナガネジリンボウのようにホバリングするタイプだと、流れに向かうポジションで並んでくれるから2匹が同じ方向を向いていることのほうが多いのだけど、ダテハゼ類はたまにホバリングすることはあっても基本的に着底タイプなので、せっかくペアでいても……

 そっぽを向いていることもけっこう多い。

 周囲を警戒するためにはこのほうが視野が広くなるのだろう。

 でも絵的には寄り添っていてくれたほうが…。

 ヤノダテハゼのパートナーシュリンプも、コトブキテッポウエビだ。

 そのコトブキつながりで……

 ヤシャハゼと同居している子もいる。

 同じ種類のオス同士だと時として争い合うこともあるようなのに、異種間でも静かに同居している二人は、ひょっとして禁断のカップルなのだろうか?

 ちなみに↓この方も同居してます。

 「居候」というレッテルを貼られながらも、第1種警戒警報発令係として活躍するスミゾメハナハゼ

 追記(2025年3月)

 居候とレッテルを貼られてはいても、その実高所から周囲を見渡して危険を真っ先に察知するという貢献をしているスミゾメハナハゼ。

 となると、スミゾメハナハゼと同居していないヤノダテハゼは、高所からの警戒が手薄になってしまう…

 …かというとそういうわけでもなく、スミゾメハナハゼの助力を得られないヤノダテハゼは、自ら高所警戒係の役を兼ねている。

 ヤノダテハゼの個体数が多いところでは、そこらじゅうでこのように底から10数cmほどのところでホバリングしている様子を見かけることが多い。

 当初はヒメダテハゼのように周囲のメスたちへアピールしているのかなとも思ったのだけど、ホバリングしている際のヤノ君たちにはヒメダテハゼのような気張っている様子は見えないし…

 底にいても見通しのいい白い砂底にいるものよりも、底にいると視界が遮られる死サンゴ礫が多い砂礫底にいるものたちのほうが頻度高くホバリングしているところからして、やはり周囲を警戒するためにホバリングしているように思える。

 ま、ホバリングしているのはオスだけってことになったら、また話は違ってくるんだろうけれど、はたして真相は?