全長 2cm
水納島の場合、いまだ目にしたことがないこのテの小さな小さなベニハゼ類と出会うのは、普段あまり行かない深いところであることが多い。
ところが写真のハゼは、普段からしょっちゅう訪れている水深20mほどの砂地の根の片隅に、チョコンとたたずんでいた。
2010年の梅雨明け直後のことだった。
ワタシ自身は初見だったので勝手に盛り上がりはしたものの、ゲストをご案内中だったために写真は撮れず。
記憶を頼りに後刻調べてみたところ、2010年当時の最新図鑑にはすでに和名付きで載っていた。
その名もヒメニラミベニハゼ。
一週間後カメラを携えて再訪してみたところ、ハゼ君はまったく同じ場所にまったく同じようにたたずんでくれていた。
さっそく激写。
「ニラミ」というのは、アイシャドーのような美しく青い模様がキリリとした眉のようにも見え、睨んでいるようなイメージということだろうか。
もっとも、どれほど眼光が鋭くともせいぜい2cmちょいの小さなハゼだから、たたずまいそのものは可憐で愛らしい。
ちなみにこのハゼはオキナワベニハゼやオオメハゼなどとは違い、写真の天地が実際の天地なので、見やすさという意味でもヒトの目に優しい。
主生息域はもっと南方の海らしく、聞くところによるとパラオあたりでは、ドロップオフのある程度深いところまで行けば、探す必要が無いくらいに岩肌にいくらでもいるという。
そのあたりから黒潮に乗った「選ばれしモノたち」が、はるばる日本にやってきているのだろう。
なので黒潮コースにある海では、日本でもわりとコンスタントに観られているようだ。
あいにく沖縄本島地方は黒潮が豪快にぶち当たって流れを変える…なんていう立地ではないから、南方系のお魚たちはおこぼれ程度でしか出会えない。
それでも環境的に適しているところでは、ヒメニラミベニハゼは毎年ポツポツ出没しているようながら、おそらく水納島の砂地の根のような環境では、かなり貴重な出会いだろうと思われる。
カメラを構えつつそっと近寄らせてもらうと……
ホバリングをしてくれた。
エサを食べるためじゃなくて、何か意味ありげにするこのホバリング、この時は観ている間に何度もやってくれていたから、もう少しヒレに気合が入っている状態を撮らせてもらおうと待っていると……
おお、ヒレ全開!!
でも尾ビレが……。
ま、しばらく居てくれるようだし、またあらためて撮り直そう。
…と思っていたら。
ハイシーズンのことゆえ、カメラを携えて訪れることができたのは、それから20日後のこと。
さすがにもう居なくなっているかなぁ…と思いきや、これまたほぼ同じ場所に鎮座ましましていた。
ただ。
この時はホバリングを見せてくれるどころか、なぜだかヒレすらほとんど広げてくれない。
気分で随分違うらしい……。
ま、約ひと月居てくれているってことは、今後もチャンスはあるだろうから、出直すことにしよう。
ああしかし。
これがラストチャンスになってしまった。
このあともしばらくは何組かのゲストにご覧いただくことはできたのだけど、なかなかカメラを携えて訪れることができないでいるうちに、いつの間にかいなくなってしまったヒメニラミベニハゼ。
以来、同じ場所を通りかかるたびにチェックはしてみるものの、それから10年経った2020年5月現在、いまだ2度目の出会いはない。