水納島の魚たち

ヒメウツボ

全長 (MAX)30cm

 他のウツボの仲間に比べ、とびきり小さいヒメウツボ。

 ウツボらしからぬサイズもさることながら、なんといってもこの黄色!!

 可愛さで言うなら、ウツボ界の女王ハナヒゲウツボを軽く凌駕しているではないか。

 そりゃそうだ、ウツボ界の「姫」なのだから。

 今でこそヒメウツボという名前がついているものの、ひところはダイビング雑誌などに「ナゾのウツボ」として登場していたこともあった。

 「ナゾ」の頃から出会ってはいたけれど、水納島では、それほど多くは観られない。

 ただしレアというほどでもなく、忘れた頃にふと見かけるくらいのお付き合いだ。

 そのため残念ながら、「観たいッ!」とリクエストされても応えられない。出会いたければ、分母を増やす以外に方法はない。

 ちなみに、ヒメウツボはキレンジャーだけではなくて、茶色っぽい個体もいる。

 なるほど、成長すると茶色っぽくなっていくのか…

 …と納得しかけたのだけど、そういえばたまに見かける沖縄そばほどの太さしかない小さい個体は、黄色ではなく↓こういう色をしているものしか観たことがない。

 サンプル数は極めて僅少ながら、それを踏まえて考えてみると、黄色い個体というのはすなわち黄化個体ということなのだろうか。

 ネットで調べてみたところ、いつの間にやらこのヒメウツボキレンジャーを黄化個体、黄変個体として扱っている方が多く、業界的には現在そういう認識になっているらしい。

 ところで、オトナになってもせいぜい30cmほどの小さなウツボだからか、オトナも子供もたいていの場合、カメラを向けると、スーーーーーー………っと引っ込んで顔だけしか出してくれなくなる。

 隠れたいのなら、なんでわざわざ目立つ黄色になるのか、凡百ダイバーのワタシには理解不能だ。

 そんな照れ屋なヒメウツボながら、やはりウツボはウツボ、やる時はやるぜ!的なシーンに出会った。

 どういうわけか岩肌にカシワハナダイの若魚の死体があって、それを見つけたヒメウツボが、居ても立ってもいられなくなってしまったのだ。

 あいにくゲストをご案内中だったためワタシ自身は記録に残せなかったものの、ゲストのアネモネフィッシュさんが撮影してくださった画像(上)と動画(下)をご提供してくださった。

 ↓この動画は、上の写真のあと、ヒメウツボがいったんカシワハナダイの死体を隠れ家に引っぱりこんだところから始まる。

 普段のヒメウツボとは別キャラ!!

 しかし死体相手には強気なヒメウツボも、ウツボ類を仇のように疎んじるニジハタ相手だと、やはり分が悪いようだ。

 居心地のいい場所を求めてガレ場をウロウロしていたヒメウツボ、おあつらえ向きのスポットを見つけたまでは良かった。

 ところが、その一部始終をニジハタに目撃されていたらしい。

 小岩の隙間から顔を出すと…

 どこからともなく現れたニジハタが、背後から迫る。

 オラオラ…

オラオラオラ…… 

 オラオラオラオラ!!

 「ウツボ」と聞いて抱く凶暴なイメージとはほど遠いヒメウツボだけに、ほとんどイジメの世界になっている。

 でも何も知らずに↓この1シーンだけを観れば……

 2人はとっても仲良し!

 …に見えるかもしれない。

 うーむ、「本校にイジメはありませんでした」と事件後どこかの校長が言うのも無理はないのかもしれない…。

 いずれにしても、わざわざ黄色にならずとも茶色のままでいれば、もう少し世渡りしやすくなると思うのだけどなぁ。

 追記(2021年10月)

 モノ言わぬ死体相手じゃないかぎり、いつもやられっぱなしに見えるヒメウツボもやる時はやろうとするらしい。

 ヒメウツボといえば警戒心が強く、カメラを向けるとたちまち引っ込むことが多いのに、カメラなど眼中にないかの如く、妙に視線を一点集中して身を乗り出している子がいたのだ。

 はて、いったい何に夢中になっているんだろう?

 その視線の先を観てみると…

 岩陰に無数のクロスジスカシテンジクダイたちが蠢いていた。

 いや、でもヒメウツボ、ご馳走を目にして盛り上がるのはわかるけど……無理なんじゃね??

 しかしますます身を乗り出すヒメウツボ。

 が。

 本来であればひっそりと過ごしていなければならないウツボがこのように身を乗り出して目立ってしまうと、根の住人たちにたちまち闖入者と見なされ、小魚たちの執拗なイヤガラセに遭うことになる。

 この時も、すぐさま騒ぎを聞きつけた長屋の江戸っ子住人のようにハナダイたちが駆けつけ、ヒメウツボの動きを封じようとする。

 写真のキンギョハナダイのメスも、たまたまここでヒメウツボと一緒に写っているわけではなく、腰から下を摺り寄せるようにしてウツボに圧力をかけているところ。

 立て続けにこのようなイヤガラセを受けたヒメウツボは、スゴスゴと元の巣穴に引っ込んでいった。

 やる気は見せても、やっぱりヒメウツボなのだった。