全長 30cm(写真は20cmほど)
コロナ禍中とはいえ週末ともなると洋上は多くの船でにぎわう2020年シーズンの水納島。
のんびり10時出港予定でダイビングにおもむくと、主要なポイントにはすべてボートが停まっている。
せっかく小さな島でダイビングをしにきたゲストに、なるべくなら海中でウヨウヨウロウロしている他のダイバーなんぞをご覧に入れたくはないから、他のボートが停まっているところでは絶対に潜らない。
そのため現地で唯一のダイビングサービスにもかかわらず、主要なポイントでは潜れない、なんてこともザラにある。
そういう次第で、仕方なく普段滅多に行かないところで潜っていた日のことだった。
ひととおり巡ってフリータイムとなり、ボートの近くでキホシスズメダイのチビチビ祭りなどをボンヤリ鑑賞しながらフラフラしていたところ、巨大なゴンべがチョコンと……というかサイズ的にはドデンと鎮座しているのが目についた。
こういう場所にいる大きなゴンべといえばホシゴンベ。
しかし見慣れているホシゴンベとはいささか異なるその色柄、しかもでかすぎ。ワタシがいまだ知らないホシゴンベのスーパー老成魚なんだろうか。
それにしては、大きさのわりにまだ若々しい感がある。
フタイロカエルウオに3色バージョンの色彩バリエーション個体がいるように、ホシゴンベにもこのような色彩バリエーションがあるのだろうか。
いずれにしても、これまで観たことがないということだけはたしかなので、ポッケのコンデジでパシャパシャ撮らせてもらった(冒頭の写真)。
単体だとそのサイズがわかりづらいから、すぐそばを通りかかった対ナミダクロハギ比も。
通りすがりのナミダクロハギはまだ完全なオトナサイズではなかったとはいえ、「ゴンべ」というイメージとはほど遠いそのサイズ、20cmくらいはある。
でっかいだけに行動範囲も広く、撮っていると嫌がって場所を何度も変え、そのたびにわりと遠くまで泳ぐ。
ジロリとカメラを睨みつける目もなかなかの迫力だ。
はてさて、このゴンべはいったい誰?
帰宅後調べてみたところ、すぐさま正体が判明した。
このゴンべ、その名をイレズミゴンベといい、たたずみ方が似ているだけあって、ホシゴンベやメガネゴンべと同じホシゴンベ属のゴンべだ。
オトナの体色にはこのタイプの他に、もっと黒っぽくなって白線が無いバージョンもあるらしい。
南洋の島々ではわりとフツーに観られはしても、日本では小笠原以外ではかなりレアなのだとか。
そりゃそうだ、特別深いところでもなんでもなく、肉眼では見えないほど小さな小さな魚というわけでもなく、10mにも満たない水深にいた30cm級の魚に26シーズン目にして初めて出会ったのだから、水納島では超絶級のレアな魚であることは間違いない。
マックス30cm超というから、まだ成長途上なのだろうか。
付近には他にも仲間がいるんだろうか。
レア度からすれば、ここにたった1匹で暮らしているのだとしてもおかしくはないイレズミゴンベ。
際立つ孤高の存在感。
その出会いは洋上がボートだらけだったおかげなのだから、世の中なにが幸いするやらわからない。
※追記(2021年8月)
強い南風が吹く日々が続いていた今年(2021年)5月下旬のこと。
南風が強すぎるために行けるポイントは限られるのだけど、ご滞在中のゲストも砂地のポイントばかりじゃ飽きてしまうだろうということで、例の普段滅多に行かないポイントを訪れてみた。
するとそこで、1年ぶりにイレズミゴンベと再会。
前年に初めて出会ったところとまったく同じ場所だから、レア度に鑑みてもおそらく同一個体なのだろう。
ずっと孤高の存在を貫いているからだろうか、全身から誇らしげなオーラが滲み出ている。
でもこちら側からだと手前の死サンゴが邪魔だから、反対側から観させてもらおうかなぁ…
…と思ったら、
逃げちゃった。
水深10mほどのリーフエッジ付近がもっぱらの住処なのかと思いきや、ナリがでっかいだけに行動範囲も広く、ひと逃げあたりの距離も長い。
どこまで行くのかな…と観ていると、一段上の遥かリーフ上の浅い浅いところまで泳ぎ去っていった。
そのあたりまで縄張り圏内だとすると、そりゃここを訪れたからといっていつでも会えるわけじゃないのもナットク。