水納島の魚たち

クロヘリメジロザメ

全長 3m(写真の個体のサイズは記憶にない)

 サメ類の仲間には、現在世界の海にいる60種前後のサメたちを含むメジロザメ科というグループがあって、ネムリブカ属ただ1種のネムリブカもそこに含まれている。

 その他メジロザメ科には、メジロザメ属という30種前後を擁するグループもある。

 けっこうデンジャラスな種類もいるメジロザメ属のサメ、魚影が凄まじい南洋の海に行けばそれこそウジャウジャいるのだろう。

 あいにく水納島の海では、そうそう観られるものではない。

 …と思っていたら。

 今回サメ・エイの仲間をまとめるために過去に撮った写真を観ていると、どう見てもメジロザメの仲間としか思えないサメの写真が、たった1枚だけあることに気がついた。

 このフォルムを見るかぎり、メジロザメ属のサメであることに疑いの余地はない。

 ただ、30種もいるメジロザメ属の何ザメなのか、こんなヘナチョコ写真1枚で判定するのは容易ではない(写真が上手に撮れていたとしても容易ではないんだけど)。

 ネット上に星の数ほどある写真をいろいろ見比べたところ、クロヘリメジロザメが最も近いかと思い、この稿では一応そのように表記してはいる。

 ただしクロヘリメジロザメはもっぱら温帯域に暮らすサメだそうだから、実は全然違うサメかもしれない。

 ま、種類がなんであれ、メジロザメ属の猛者が水納島の海にもいたってことは記録しておかねば(観た本人が忘れているくらいだから)。

 なにしろ記憶がまったくないので当時の状況ひとつ思い出せないのだけれど、冒頭の写真は無理矢理画像処理をしたもので、元の写真は青いモノトーン。

 どうやら105mmのマクロレンズで無理矢理撮ったらしい。

 ということは、そんなに近くはないけれど、かといって遥かに遠いわけでもない中層を、メジロザメ属のサメが泳いでいたことになる。

 アドレナリン大爆発ッ!!

 ……だったのだろうか、その時のワタシ。

 写真データを見ると、2009年11月27日に撮ったものであることがわかった。

 こんなスタイルのメジロザメ系なんて目にした日には、心臓ドキドキでその後ずっと周囲をキョロキョロしてしまい、以後のダイビングも撮影も何もあったもんじゃない…

 …はずなんだけど、どうだったんだろう?

 かなりの余談ながら、当サイトの「徒然海月日記」の前身である「最近のログ」というコーナーは、98年に当店ウェブサイトを開設して以来休むことなくほぼ毎日綴っていたのだけれど、あいにく当時はブログサイトなどなく、契約しているサーバーの容量も今から考えるとありえないほど少量だったため、いわゆる過去ログはまったく残っていない(自分のパソコン内にも)。

 2010年から2011年にブログサイトに移行するまでの2年ほどは、海の話に限って別枠を設けて保存するようにしたものの、2009年となるとまったく影も形もない。

 一方2009年頃はまだデジタルデータの扱いに慣れておらず、従来の「この世にたった1枚しかないポジフィルム」のノリで整理していた愚かなワタシ。

 そのためたった1枚残っていたこのサメの写真は、「サメ・エイ」をまとめているフォルダに収納され、以後ほぼ顧みられることはなかった。

 ヒトの記憶とは、ときおり再生させることによって持続力を得るという。

 エピソードとして振り返ることなく、写真を適時見返すわけでもないとなると、大脳辺縁系の奥底で静かに眠る海馬の中で、記憶はサルベージ不能領域まで沈下していくことになる。

 しょうがないので2009年の11月27日に何を撮っていたのか、すでに各項目別に散らばってしまっている2009年撮影の写真を探す羽目に。

 すると……

 おお、どうやらエントリー早々にこのサメに出会い、このサメの写真を撮った直後といっていい時刻には、呑気に新一本サンゴ(当時はハート形になってた)に集うフタスジリュウキュウスズメダイなんぞを撮っているではないか。

 ってことは。

 さほど大興奮ドキドキ状態ではなかったのだろうか。

 ひょっとして

 「あ、ネムリブカが泳いでる」

 くらいの軽いノリで、1枚だけ撮ったのだろうか。

 それとも、ネムリブカではなさそうながら、さほどのサイズじゃなかったから全然ドキドキしなかったのだろうか。

 いやあ気になる。なんとも気になる当時のワタシ。

 2009年の11月末に、この話でワタシは騒いでいませんでしたでしょうか。

 10年前のことながら、奇跡的に覚えているなんて方がいらっしゃいましたら、そっと内緒で教えてください……。

 追記(2026年3月)

 初見時のことはまったく覚えていないワタシながら、まさかの二度目が訪れた。

 それは、昨年(2025年)の師走半ばのことだった。

 このところ長期に渡ってとある砂底にポツンと大きめのトサカが生え続けていて、そこにウミウシやらなにやらがついていることがよくあるので、通りかかるたびにチェックしている。

 流れの加減で開いたり閉じたりするトサカ、この日はポリプ全開モードでなかなか見応えがあった。

 近寄ってみたところ、例によっていつものごとく、各ポリプの先から不思議的ウニョウニョも全開状態だった。

 そこでポッケからコンデジを取り出し、そのウニョウニョの様子を動画で撮ることにした。

 動き回るものを狙って撮るわけじゃなし、カメラをトサカに向けながらも、液晶画面を凝視することなく多少は周囲に気を配っていたことが功を奏したのだろう。

 いきなり現れたように見えた目の端の巨大生物は、この方だった。

 動画からのキャプチャー画像なので見づらいけれど、トサカを撮っていたら脇から登場だなんて、こりゃビックリたまげた門左衛門。

 その驚きの様子を動画で…(画面右側から登場します)。

 海中で2mほどに見えたこのサメは、目の端に見えた時は大きめのネムリブカかなと思ったのだけど、ネムリブカと比べたら背ビレあたりの体高が遥かに高く、背ビレ自体も長く、体に比したら小さ目の顔も、顔つきが全然ネムリブカと違っている。

 後刻映像を見てみたらば、各ヒレの先が黒いところからして、どうやらクロヘリメジロザメのようだ。

 眼前5mをサメが通り過ぎている最中は驚きのあまりただ動画を撮っているだけで、かろうじてメジロザメ系っぽいことがわかっていただけのワタシながら、サメが泳ぎ去っていってからハタと気がついた。

 メジロザメ系といったら、ヤバめのサメなんじゃね?

 しかもよくよく考えたら、砂底にポツンと生えるトサカの前でジッとしていた(ように見える)ワタシの様子を見るために、わざわざ近寄ってきていたんじゃ?

 そう思い至った途端、たちまち体中を戦慄が走ったのはいうまでもない。

 そりゃ、この手のメジロザメがウヨウヨしているところをフツーに潜る海もあったり、あろうことか手なずけて膝にのせた頭をナデナデするヒトもいるみたいだし、聞くところによるとカリブ海で異常増殖したハナミノカサゴを駆除すべく、一時は本気でメジロザメ系を投入して活躍(?)させていたらしい。

 そういった海で泳ぎまわっているメジロザメ系はおおむね3m近いというのだから、ネムリブカをチョイ大きくした程度のこの日のサメなんて、むしろ小ぶりなほうなのだろう。

 でもアナタ、水納島ですぜ?

 この体を維持するためのエサとなる何ほどの魚影があるわけでもないところで、海底に転がるアヤシイ生き物(ワタシのことです)なんていったら、少なくともハナミノよりは美味そうなんじゃ…?

 そばを通過する際、目玉がギョロッと動いてこちらを観ていたような気がするなぁ。

 もっとも、海中で2mほどに見えるということは、実際にはワタシと大して変わらないサイズなのだろう。

 そのうえワタシはフィンをはいているから、彼から見ればより大きく見えるかもしれない。

 それが功を奏したのか、もともと通りすがりのサメなのか、いまだ真実は詳らかにはならないものの、少なくとも初見時の2009年11月末のワタシは、海中でちゃんとジジツを認識していなかったであろうことが判明したのだった。