全長 25cm
ハギというと、フツーはニザダイ科の魚に付けられている名前だ。
ところがノコギリハギやハクセイハギ、そしてこのメガネハギのようにずっと昔に和名が付けられている魚には、ニザダイ科ではないのに〇〇ハギという名になっているものがいる。
もともとが地方名に由来している「ハギ」だから、魚類分類学上の属性に関係なく定着していたという歴史もあるのだろう。
いずれにしても、ナニゴトにも小うるさい今の世の中とは違って実におおらかだった昔の日本では、もちろんのこと魚の和名ひとつとってもゆるやかだったのだ(分類学的研究が進んでいなかっただけともいうけど)。
とはいえこのメガネハギ、いったいなにがどうメガネなんだろう?
モンガラ類でも屈指の地味さを誇るメガネハギは、砂地のポイントのリーフ際の転石帯あたりから、それほど深くはない砂地の根くらいまでの範囲で観られる。
同じような環境にやたらとたくさんいるツマジロモンガラに比べれば遥かに少ないものの、体はやや大きめだからエサの食べ方も豪快で、砂ごとエサを口に含んだあと、エラから砂粒を吐き出す勢いがなかなか激しい。
まるで雪国の除雪マシーンのようだ。
だからといって目の色を変えるほど珍しいわけでもなく、フツーに出会えるメガネハギなので、地味すぎるあまり、出会うたびにいちいち彼らを気に留めているダイバーは多くはない。
少なくともログ付けの時間に、メガネハギの名前が出てきたことは、過去24シーズンをふりかえってみてもただの一度もない(幼魚を除く)。
ある意味四半世紀に渡って無視され続けてきたメガネハギ、冒頭の写真はメスで、オスには口元にスカーフェイスのようなラインが入る。
これは体色を淡くしているときで、濃い時は……
とってもよく目立つ(同じ個体です)。
それにしてもメガネハギ、注目していないときは彼らのほうからすぐそばまで近寄ってくることもあるというのに、いざカメラを向けるとなんと逃げ足の速いこと。
まぁ繁殖期以外のモンガラ類といえばたいていそうではあるけれど、メガネハギもまた、とりわけ小ぶりな子は、いざとなると岩の下の隙間に逃げ込む。
逃げ場のスペースの都合か、珍しく顔まで見えていた。
オスに注目して潜っていたので、さっそく見つけたオスをずっと追跡してみたところ、体が大きくなるとそうそう引っ込まないのか、随分遠くまで泳いでいく。
その途中、注目していたオスは、他のやや小ぶりなメガネハギからイチャモンをつけられていた。
卵を守っているわけでもないメスが、オスに対してこのようにあからさまに敵対行動を示すことはなさそう。
ちなみにイチャモンをつけたのは↓こちらの方。
その口元を見ると、完全なオスほどではないにしろ、スカーフェイス模様がチョロッと……。
これはすなわち、オトナになりかけのオスということだろうか。それともオスになりかけのメスということだろうか。
メガネハギ、今さらながら奥が深い……。
オスの特徴はともかくとして、メガネハギたちは前述のように体色の濃淡を自在に変える。
尾柄部の白い模様は、体全体が淡くなっているときにはほとんど目立たなくなる。
その時の気分で自在に体の濃淡を変えられる彼らの場合、いったいどっちが「普段の色」なのかよくわからないのだけれど、ホンソメワケベラにクリーニングしてもらっているときはこんな感じ。
クリーニングしてもらっている時というのはきっと気持ちがいい時のはずで、となるとこうして黒っぽくなっているメガネハギはゴキゲンな時、ということなのだろうか。
ちなみにモンガラ類は総じて体表が硬いから、ホンソメワケベラの繊細な施術くらいだったら、たとえホンソメがヒヤリハットの大ミスをしでかしても、モンガラたちには痛くも痒くもない。
むしろちょっとくらい強めのほうが心地いいらしく、ホンソメワケベラに完全に身を委ねているメガネハギは、やがて「ウヒョ〜〜〜〜〜♪」というポーズになる。
よっぽど気持ちいいらしい。
体を黒っぽくしているときでも口元は白いままなので、前から見ると案外セクシーリップ。
そんなメガネハギも、やはり卵をケアしているときには攻撃的になる。
といってもモンガラ類にしては寛容なほうで、極端に近寄りすぎたりしないかぎり、わりと近くから卵ケアの様子を観させてくれるメガネハギ。
メガネモンママの口の先に、直径10cm弱くらいの卵塊がある。
寛容とはいってもやはりそばにいる不審者(ワタシのことです)は気になるから、卵たちに新鮮な水流を送りつつも、少しその場を離れてワタシに向かって威嚇したり、離れていったりする。
それでも卵から離れている時間はけっして長くはなく、すぐに卵のところに戻ってくる。
あ、体の色が変わってる!(背景が異なるのは、反対側から撮っているからです)。
体色の変化に要する時間はほんの一瞬で、もし目を離していたら、別の魚が来たのかと驚いてしまうかも。
そんなメガネハギママの卵ケアの動画は↓こちら。
この卵からチビターレが誕生するわけだけど、オトナはわりとフツーに観られるメガネハギながら、幼魚となると意外に出会う機会は少ない。
ほぼ生息場所が重なるツマジロモンガラの幼魚の圧倒的な多さに比べれば、レアといってもいいかもしれないメガネハギのチビターレはこんな感じ。
第1背ビレ全開で気張っているときはこんな感じ。
パッと見はツマジロモンガラのチビにそっくりだけど、ツマジロモンガラのチビターレの尾ビレには白い模様が入るのに対し、メガネハギチビターレの尾ビレは無地。
おかげで、間近で観るぶんには見分けるのは簡単だ。
ところが遠目だとその違いはほぼわからないから、レアなメガネハギのチビに会いたければ、100回くらいツマジロモンガラのチビチェックをしなければならない。
ところで、このチビターレ時代の黒いラインが、まるで眼鏡の蔓のようだから……っていうのがメガネハギの名の由来である、という話をどこかで読んだか聞いたかした覚えがあるのだけれど、ガセネタですかね?
このチビターレがもう少し成長すると…
せっかくの模様が消えてしまう。
5cmに満たないこれくらいの頃から、早くも地味路線まっしぐらになるメガネハギなのだった。
であればこそ、眼鏡の蔓模様(?)があるチビターレに出会ったら、夢お見逃し無きよう…。