水納島の魚たち

ミカヅキツバメウオ

全長 40cm(写真は20cmほどの若魚)

 今では綺羅星のごとく刊行されているお魚図鑑も、その昔は生きている状態の写真が写っているポータブルな図鑑など数えるほどしかなく、それも限られた種類が掲載されているのみ。

 なのでワタシが「ミカヅキツバメウオ」なるツバメウオの存在を知ったのは、ダイビングを始めてから随分経ってからのことになる。

 だからといって実際にツバメウオとどこがどう違うのか、見分け方の詳細が記されてはおらず、今のようにネットでチャチャチャと調べられるわけでもないから、長らくの間、正体が謎のままツバメウオの幼魚と信じていたのがこの子だ。

 ナンヨウツバメウオとは明らかに違うそのフォルムに鑑みれば、これはツバメウオの幼魚に違いない。

 ツバメウオの稿で触れているように、ツバメウオの小さな幼魚を観たことがないものだから、体長2cmほどの幼魚ともなれば画期的な発見だ!

 …と思ったものだった。

 ところが、その後刊行された、ヤマケイの小さい方の「日本の海水魚」では、

 「幼魚は体後半の横帯の直前に1本の細い横帯があることが特徴」

 と、従来の図鑑ではまったく触れられていなかった見分け方……それも一目瞭然の……が記されているではないか。

 ツバメウオの幼魚と信じて疑わなかった写真をよく観ると……

 あ、横帯の直前にうっすらと1本の細い横帯がある……。

 ミカヅキツバメウオなのだった。 

 この幼魚はこの年のシーズン中に随分ながく桟橋脇、それもマリンジェットを係留するブイ付きロープ周辺に居てくれた子で、その後の成長も追うことができた。

 茶色い枯葉にしか見えなかったものが、しばらくすると…

 優雅な宇宙船のようなフォルムに。

 その後さらに成長すると、こうなった。

 この先さらに成長すれば、三日月から銀色に輝くまぁるいお月様になるはずなのだけれど、さすがにそこまではビーチに居ついてはくれなかった。

 そんなわけで、オトナにはいまだ出会ったことはない。

 追記(2021年8月)

 オトナには依然会えないままでいるけれど、わりと育った若魚と再会していたことを忘れていた。

 2018年のシーズンも終わり、のんびり海に行こうかとボートを桟橋に寄せている時、ロープを引っ張っていたオタマサが発見。

 たまたまワイドレンズ装備だったので、ボートを横付けした後すぐさまバシャンと海に入り……

 波打ち際近くでパシャ。

 せっかくのんびりたゆたっているところをお邪魔しているため、彼としてもカメラにつきまとわれるのがイヤだったのだろう、スイスイ泳ぎつつたどり着いた先は…

 まだまだ拠り所を必要とする若魚のこと、ボートの陰は大事な隠れ家だったらしい…。

 追記(2022年12月)

 今夏(2022年)、再びミカヅキツバメウオが桟橋脇にしばらく居続けてくれた。

 7月の末頃に連絡船バース側に姿を見せたかと思えば、翌月にはうちのボートを停めている側に、それも2匹で。

 これが前年までのコロナ禍で客も業者も営業を自粛している状態であれば、朝夕など人けのない時間帯に、波打ち際近くのゆらめく光の下でのんびり泳ぐ姿を見ることができたかもしれない。

 ところが今年は、コロナ以前級とは言わぬまでも、島を訪れる業者はさらに増えているから桟橋脇はジェットやボートがひっきりなしに行き来している。

 そのためだろうか、2匹のうち1匹は、背ビレがボロボロになっていた。

 そうなるとミカヅキツバメウオとしても、日中は物陰に隠れている時間のほうが長くなっているようだ。

 桟橋脇から姿を消したので、もうリーフの外に出て行ったのかと思いきや、ジェットスキーの係留ロープに寄り添うようにジッとしていた。

 ミカヅキツバメウオが真夏の波打ち際でのんびり泳ぐためには、やはり「静かな環境」が必要なのだ。

 コロナ禍がもたらしてくれた「静かな夏」というゼータクな日々は、次なる最凶ウィルスでも誕生しない限り、おそらくもう二度と帰ってこないだろう。