水納島の魚たち

ムナテンベラ

全長 15cm

 ムナテンベラダマシがいるってことは、もちろんダマシがつかない本家ムナテンベラもいる。

 魚の和名の場合、本家とダマシやモドキがそれぞれ別のグループに属すということがおうおうにしてあるのだけれど(各種ハナダイとハナダイダマシとか、ウメイロとウメイロモドキなど)、ムナテンベラとムナテンベラダマシはまったく同じ属のベラだ。

 ただしこの本家とダマシの場合、それほど似ている感がない。

 この程度で「ダマシ」と言われたら、ムナテンベラダマシとしてはとんだ濡れ衣かも…。

 それはともかくダマシに対する本家だけあって、ムナテンベラの個体数は多く、砂地のポイントのリーフ際のような浅いところでオトナもチビもごくごくフツーに観られる。

 5cmほどのチビ(冒頭の写真)とオトナの体色的な差は背ビレの眼状斑の有無くらいで、オトナになっても劇的な変化はない(子供の頃は腹ビレが色鮮やか)。

 海中で観るとオレンジの部分以外は全体的に暗い色味に見えるのだけど、こうして写真を見ると、ムナテンベラの名の由来(胸に点)がよくわかる。

 ムナテンベラダマシと同じくムナテンベラも雌雄で体色の差はほとんどないそうで、これよりももう少し大きなモノになると…

 全体的にダークな部分が増えるような気がする。

 それでも各ヒレの縁はオレンジ色で、ボディはそのオレンジが混ざったようなダークな赤紫、これがムナテンベラのオトナの色だと思っていた。

 ところが図鑑によってはムナテンベラのオトナの色味が、腹ビレを除いて全身ほぼほぼインディゴブルーのものが載っているので、ひょっとしてそれがまだ見ぬオスオスした完熟オスなのかと思い探してみたものの、目にするものはオレンジククリのものばかり。

 ムナテンベラの完熟オスは水納島にはいないのだろうか……

 …と思いきや。

 実はムナテンベラは、沖縄周辺で観られるものと伊豆半島や伊豆諸島で観られるものとでは、オトナの色味が基本的に異なるらしいのだ。

 2016年に刊行された「ベラ&ブダイ」のおかげでそのジジツを知ることができていなければ、居るはずもないインディゴブルームナテンをずっと探していたかも…。

 リーフ際の水深10m未満の海底でもフツーに観られるムナテンベラたちは、めいめいが気ままに海底でエサを探している。

 その周りには手の届く距離(?)に他のムナテンベラたちがいるにもかかわらず、仲間内でコミュニケーションをとるような素振りを見せず、オスがメスにアピールする様子もない。

 老いも若きもみんながみんな「隣は何をする人ぞ」的に、他者には無関心のようにすら見える。

 いわばヤマブキベラの仲間のような「リーフ際チャカチャカ泳ぎベラ」は過干渉な昭和の長屋で、ムナテンベラたちはプライバシー優先の個人主義社会ということなのだろうか。

 おそらく繁殖のときにだけ、ヒトが変わったかのような素振りを見せるのだろう(観たことがない…)。

 だからこそ、チビの姿も観られる。

 冒頭の写真よりももう少し小さいので、背ビレの眼状斑もクッキリハッキリ。

 チビとはいえこれくらい(4cmくらいか)なら、誰が見てもムナテンベラであることがわかる。

 モンダイはこれよりも小さなチビターレ。

 オトナとチビで劇的な体色変化を見せないムナテンベラといえど、チビターレになると話は別だ。

 ムナテンベラのチビターレは、↓こんな感じ。

 オトナになれば明らかに違って見えるミツボシキュウセンの仲間たちながら、チビターレの頃はそっくりなものが多く、この2cm弱くらいのチビチビの姿は、カノコベラだとかニシキキュウセンだとかアミトリキュウセンといったあたりのチビターレにそっくり。

 しかしそれらのチビターレとは、以下の点で区別ができる。

  • 背ビレの眼状斑が1つ
  • その眼状斑の縁取りは上半分側だけ
  • 尾ビレの付け根付近に小さな黒点
  • 体の中心線よりも上側にも白点の列がある

 以上に鑑みまして、このチビターレはムナテンベラであります!

 …と結論づけたんだけど、合ってますかね?

 図鑑「ベラ&ブダイ」にはムナテンベラのチビターレの写真も載っているんだけど、微妙に色合いが違っていまひとつビンゴ!感がない。

 でもオトナの色も八丈島とでは全然違うのだから、チビターレの色味が違っていても不思議はない……よね? 

 若魚やオトナに比べると、このチビターレに出会う機会は少ない。

 いないというよりも、小さすぎて気づいていないだけではあるんだろうけれど、ムナテンチビターレか?と思って撮ってみても、9割以上の確率でそれはニシキキュウセンのチビだったりする(ニシキキュウセンのチビは多い)。

 追記(2021年7月)

 「チビターレに出会う機会は少ない」なんて書いていたけれど、どうやらそれは、興味をもって探してみたのが冬場だったからのようだ。

 というのも、今年(2021年)もいろんなチビチビたちが湧いて出てくる季節になった春からずっと気にしていたところ、梅雨時にはそこらでいくらでもムナテンベラ・チビターレの姿が。

 先ほどツラツラと並べたムナテンベラ・チビターレの特徴に照らし合わせれば、きっとこの子もムナテンベラ・チビターレで間違いない。

 春からそこらでポコポコ出会えるくらいだから、初夏ともなるとこのあと成長していく姿にもちょくちょく会えるようになった。

 上の写真は同一個体ではないものの、こうして成長過程を踏まえてみれば、親と似ても似つかないチビチビもまた、ムナテンベラ・チビターレであることが素直に納得できるのだった。