全長 3cm
今年(2020年)の秋はダルマハゼの仲間に注目していたこともあって、リーフ際の浅いところに戻ってきてから、トゲサンゴにいるアカネダルマハゼやクロダルマハゼの様子をチェックしていたときのこと。
傍らから、千切れた海藻の端の端のような、3cmほどの糸屑状のものが漂ってきた。
なぜだか妙に気になったその糸屑、これが魚だったら面白いのになぁ…
…と思って観ていたら、あらら、ホントに魚だった!
単に漂っているだけかと思ったら、頭(右側)のやや後ろ部分を糸で引っ張られているかのようにクイッと持ち上げた姿勢をキープしつつ、能動的に前進していた。
なので、腰(?)から後ろはビミョーに動くし尾ビレも閉じたり開けたりするけれど、真ん中より前の部分のポーズはずっとこのまま。
ずっとこの姿勢で泳ぎつつ、タバネサンゴ(?)の上に着底すると、なにやら隙間を探っているような素振りを見せていた。
でもこのサンゴに特に執着はなかったようで、ほどなく再び(能動的に)例のポーズで泳ぎ始めた。
この細長い体、尾ビレの感じ、そしてサンゴの上を這う姿は、どこからどう見てもヨウジウオの仲間だ。
夜中に煌々と照るライトを船から吊るし、漂ってくる浮遊性の稚魚や幼魚を見るのが一部で流行っていた頃、ヨウジウオ類の幼魚もよく登場するメンバーだったようながら、そういった稚魚的雰囲気ではなさそう。
むしろ姿形は、すでにオトナフォルムになっている雰囲気がある。
でもその顔は……
のび太の恐竜みたいなんですけど。
こんな顔のヨウジウオなんて、観たことな〜い!
吻がやたらと短いヨウジウオといえばヒメホソウミヤッコが思う浮かぶけど、全然違って見える。
ひょっとしてタツノオトシゴ系?
でも尾ビレはちゃんと「ヒレ」になっているからタツノオトシゴ系ではない。
いったい誰だ、このヨウジウオ??
昔のワタシならたちどころにその場で新種と断定していたところながら、年を重ねてささやかながらも落ち着きを身に着けているので、にわかには騒がない。
騒がないけど、おそらく千載一遇!
発見当初にすぐそばいたオタマサに指し示していたから、2人でその様子を眺めつつ、このままコイツはどこまで行くんだろう……と思いつつ、なにしろ千載一遇だからずっと観ていよう……
…と思い始めた矢先。
さらに先を行こうとするナゾのヨウジウオの前から、圧倒的意思の強さを感じさせつつまっすぐ接近してきた黒い影。
え?
と思う間もなく、そいつはこの魚を我々の目の前でパクリとひと飲みにしてしまった。
ナニゴトも無かったかのように元の位置に戻り、素知らぬ顔をしているその黒い影とは……
ご存知ホシゴンベ。
幼魚の頃から他の魚をゲットするプレデターとはいえ、よりにもよってアンタ、こんな糸屑のようなものを食べたって腹の足しにもなんないでしょうが!!
それにしても、完全に千切れた海藻擬態の糸屑のようにしか見えないものを、たちどころに看破するホシゴンベの眼力の凄さよ……。
単に我々の視線の先を追っただけだったりして?
ともかくそんなわけで、ヘタをすると一生に一度級の千載一遇だったかもしれない出会いは、ホシゴンベのひと飲みによって終止符を打たれたのであった。
この首根っこマリオネット泳法のヨウジウオ、いったい誰なんでしょう?
ご存じの方、テルアスプリーズ。