全長 10cm
ゴシキエビがいればニシキエビがいるように、ゴシキイトヒキベラがいれば、当然のように(?)ニシキイトヒキベラもいる。
クロヘリイトヒキベラやゴシキイトヒキベラとほぼ同じようなところにいるこのニシキイトヒキベラは、クロヘリイトヒキベラに比べると少な目ながら、ゴシキに比べると随分多く、リーフ際の死サンゴ石がゴロゴロしているようなちょっとしたスペースがあれば、どこにでもいるといっても差し支えない。
イトヒキベラの仲間と言いつつ、本種の腹ビレには「糸引きベラ」というほどの特徴はないため、どういうポーズをしてもさほど目立つわけではないし、クロヘリイトヒキベラたちが中層で群れている様子とは異なり、いつも海底に近いところに集まっているから、ますます地味な存在になる。
でも海の中での様子は紛れもなくイトヒキベラで、特にオスはそれほど広くない一定の場所でチョコマカチョコマカといつも忙しげで、その動きゆえに目立つといっていいかもしれない。
水納島は白い砂地のせいか、図鑑で観られる色彩に比べると相当薄めに見える魚が多いからだろう、ニシキイトヒキベラは「錦」というほどの色には見えない。
ところが光を当てると、わりと派手であることに気づく。
特にオスの婚姻色には、眼を見張るものがある。
ヒレを目いっぱい広げてメスを追いかけまくる姿もさることながら、色彩もガラリと変わるのだ。
ところ変わればこの婚姻色も様々なようで、もっともっとカラフルな色彩を呈しているものをネット上で観ることもできる。
オスが婚姻色を呈している際の最大の特徴は、尾柄部の黒点がまったく消失してしまうこと。
この黒い点が消えているとき、オスは情熱の炎に身を焦がしているのである。
ニシキイトヒキベラのチビターレもまた、他のイトヒキベラ類同様ガレ場の底近くで観られる。
クロヘリイトヒキベラの幼魚と区別不可能っぽいけれど、もう少し成長したものが近くにいてくれると……
ニシキイトヒキベラであることがわかる。
取り立てて珍しいわけではなく、むしろいつでもそこにいる魚なのに、意外に知られていないニシキイトヒキベラ。
この機会に是非ご注目…
…していただきたいのはやまやまながら、彼らはいかなるときも高速泳法だから、なかなかゲストの皆さんにお近づきになる機会を持っていただけないのだった。
※追記(2021年8月)
上で紹介しているカラフルな色彩の時が興奮モードであることは間違いないのだけれど、ひょっとすると産卵直前の色模様は別なのかもしれない。
というのも、今年(2021年)の初夏に観た、メスにアピールしまくっているニシキイトヒキベラのオスの色味が↓こんな状態だったのだ。
いつもニシキイトヒキベラを見かけるような場所だったから、環境に左右されているわけではないと思われる。
メスの気を引くためにブイブイいわすときのカラフル模様とは別に、産卵一本に絞ったときの産卵直前の超興奮モードだったりするのかもしれない。