全長 20cm(写真は8cmほど)
写真家大塚勝久さんの写真集「南の風」は、宮古・八重山の島々を、空撮から海の中、そしてそこに暮らす人々の姿を生き生きと捉えた、今となっては古き良き…と言うしかない「沖縄」が息づいている素敵な作品だ。
その67頁には、八重山上布を海にさらす作業、すなわち布晒しの風景がある。
この写真で海に晒されている八重山上布の模様が、なんとまぁヌノサラシにそっくり。
そこでワタシはハタと気がついた。
そうか、ヌノサラシという和名は、この八重山の伝統である上布の模様に由来して名付けられたのか。
なんとステキな命名センス!
…と、そのまま長年信じてきたのだけれど。
ヌノサラシやキハッソク、アゴハタなどは、英名でソープフィッシュと通称されている。
彼らは危険を感じると体表から粘液毒を分泌するのだけれど、その粘液毒は容器の中では泡立ち、まるで石鹸のようであることからその名がついているらしい。
一方日本には、さらし布、さらし木綿というものがあり、漂泊する際に「さらし粉」なるものを用いるそうな。
英名がソープフィッシュなら……
ということでヌノサラシ。
どうやらこれが正しい由来らしい。
ワタシのせいで八重山の伝統工芸由来説をそのまま信じてしまわれた方々、ただちにリセットしておいてください。
さてそのヌノサラシ、一般的には知らないヒトのほうが多いと思われるマイナーな魚だ。
といっても、そんなに珍しい魚ではない。
だからといって、そこかしこにいる、というわけでもない。
水納島の場合、リーフ際にほど近い、まだ砂底が始まる前の浅いところなどにポコポコあるちょっとした岩の陰などを探せば、フツーに出会うことができる。
とはいえたいてい単独でいるので、いつ見てもなんだかさびしそうにも見える。
あ、これは単にキハッソク同様、彼らが細面だからなだけか。
水納島で出会うヌノサラシといえば、このようなライン模様の10cmくらいのものばかりなので、てっきりこれがヌノサラシのオトナサイズだとばかり思っていた。
ところがこの魚、オトナになると20cm超になるという。
しかもそのライン模様は成長するとやがて破線に、そして点々模様へと移り変わるというではないか。
そんなどでかいヘンテコ模様のヌノサラシなんて、観たことない。
これまでのマックスといえば、せいぜいこれくらい。
普段よく出会うものに比べて大きいし、色味もなんだか黄色が濃いから、これがヌノサラシの熟した個体なのだとばかり思っていたのに、どうやらこれもまだまだ若いらしい。
ってことはつまり。
このあたりで観られるヌノサラシって、若魚ばっかりだったのか!
言われてみるとたしかに、ヌノサラシは年によって出会える個体数に大きな増減がある気がする。
粘液毒という防御装置を持っていても、このあたりの環境ではオトナになるまで育てないってことなんだろうか。
オトナには出会ったことがないヌノサラシ、ではチビターレはどんな色形をしているんだろう?
さっそく調べてみると……
わぉッ!!
若魚からは想像もできない超絶プリティベビーではないか!
シモフリタナバタウオ、キハッソク、そしてヌノサラシ、岩陰の麗人たちは、子供の頃こそ「麗」なのか……。
ヌノサラシのチビターレは転石帯の石ころの陰などにいるそうなので、ひょっとするとエビカニ変態社会人の方々のほうが出会う確率が高いかも。
ゴッドハンドO野さん、発見のおりには是非ともゴッドハンドシャーレにお願いいたします…。