全長 18cm
オンリーフオンリーライフ(もちろん当コーナーのみで通用する造語です…)なヤマブキベラの仲間たちのなかでも、コガシラベラとこのオトメベラは、例外的にわりと水深のある砂地の根周辺でも社会を構成している。
リーフ上に比べるとその数は多くはないものの、それでも「どこでも観られる」といっていい個体数だ。
とはいえハナダイ類のように花吹雪のように群舞するわけじゃなし、ヨスジフエダイのようにまとまった一団になって集まっているわけじゃなし、社会構成員がそれぞれてんでバラバラ好き放題にそこかしこを泳ぎ回っているオトメベラは、多くのダイバーがかなりの初期段階で「目の端キャラ」にしてしまう。
でも「目の端キャラ」もじっくり観てみると、けっこうおもしろい。
オトメベラの社会構成員は、まず社会的「オス」が1匹いる。
青味がかったこの色はオトメベラ社会構成員のなかではオンリーワンで、その社会的立場が発する色らしい。
この「オス」よりもひとまわりほど小さなものが、小さなグループの場合は数匹いることが多い。
「オス」のように青く発色することはないけれど、観た感じ堂々のオスっぽく、「オス」の目が届かないことをいいことに、どさくさ紛れにいつでも「オス」になる気でいるポジションっぽく見える。
いわばポスト「オス」なので、「オス」としても牽制をしておく必要があるのだろう、姿が目に入るや……
けっこう激しく追いかける。
むやみやたらとそこかしこで「オス」が出てこないよう、「オス」にとって力の誇示は欠かせない。
これら「オス」や「ポストオス」に比べ、メスは随分小柄だ。
背ビレに幼魚模様の眼状斑を残したものも「メス」として構成員になっているらしい。
そして、サンゴの近くなどでチョロチョロしている4cmほどの若魚は、背ビレ真ん中あたりと尾ビレにある眼状斑がよく目立つ。
これくらい小さいと、中層を泳ぐことは滅多に無い。
これより小さな幼魚は、もはやいったい誰の幼魚なのかわからないくらい色味が異なり、幼すぎて「オス」の管轄外のようだ。
2cmほどの(おそらく)オトメベラのチビターレ。
オトメベラたちもコガシラベラ同様小さい頃からクリーニング行動を頻繁に見せ、特に若い間は熱心でさえある。
さすがにオトナになるとそうそうやらないのだろうと思いきや、アオウミガメの体表をついばんでいる「オス」を観たことがある。
まぁ相手がカメだとクリーニングというよりは、岩肌の何かをつついているのと大した違いはないかもしれない。
しかしオトメベラの「オス」は、ボーッと中層にたたずんでいるモンツキアカヒメジをもそのクリーニングターゲットにしていた。
もっともこれは、モンツキアカヒメジの求めに応じてのことではなく、オトメベラの押し売り無理矢理ケアのようで、リラックスタイムを一方的に邪魔されたモンツキアカヒメジは明らかに嫌がっていた。
このような無理矢理クリーニングのほか、オトメベラの「オス」を観ていると、通知表に「落ち着きがありません」と書かれてばかりいる小学生のように、チャッチャカチャッチャカいつも何か忙し気にしているから、ずっと観ているとけっこう楽しい。
そんなオトメベラの「オス」が、何を思ったのか海底付近に降りたち、他の魚たちと一緒になって、なにやら岩肌に執着していた。
岩肌に何か好物でもあるのかと思ったら、何かを食べているわけではなく、それどころかオトメベラの「オス」は海底に鎮座してしまった。
これはたまたま一瞬のことではなく、ずっとこのままここでジッとしているのだ。
はてさて、いったい何をやっているんだろう?
実際に海中で観ているときは全然気づかなかったのだけど、後刻撮った写真をパソコンモニターで見てみたら驚いた。
暗がりの奥にウツボがいる!!
ヘリゴイシウツボの若魚だろうか、オトメベラのオスに比してこのサイズだから、さほど大きくはない。
また、どこにいても「闖入者」扱いになるウツボは、いろんな魚にイジメられるものでもある。
とはいえ、巣穴の真ん前で寝そべってしまうだなんて!!
オトメベラ「オス」、恐るべし。
これは、咬まれるかもしれないスリルを味わう遊びなんだろうか。
それとも、社会構成員たちに「ボス」としての「オス」の力を見せつけるためには欠かせない、義務のひとつなんだろうか…。
とにかくこんなことをしても傷ひとつ負わずに済んだオトメベラ「オス」は、ますます得意気になっていくのだった。
そんなオトメベラの「オス」ではあるけれど。
彼は時として突如「スティッチ」に変身する。
ポスト「オス」も、やっぱりスティッチになる。
オトメベラのポスト「オス」や「オス」は、胸ビレの内側がピンク色のため、こうして正面から撮ると、タイミングが合えばピンクの面が耳のような感じで左右に広がるのだ。
多くのダイバーが早々に「目の端キャラ」と確定してしまうオトメベラだけど、このスティッチアングルが、彼らに未曾有の脚光を浴びせまくる日が来るかも………?