全長 150cm
水深20mくらいのところでふと水面付近を見上げると、サメに似ていなくもない戦闘的なフォルムの大きな魚が4〜5匹悠然と泳いでいることがある。
サバヒーだ。
水納島では他にそうそう観られないサイズの魚だから、目にしたゲストも「おお…」となる。
もちろんその時点でその魚たちがサバヒーであることをご案内するのだけれど、とあるゲストは後刻あらためて
「あの魚は何ですか?」
とお尋ねになった。
ワタシは再び「サバヒーです」と答える。
するとそのゲストは、それはわかったから、何という名前の魚なのか、と、どうにも不得要領な質問を繰り返される。
そこでハタと気がついた。
彼は「サバヒー」という名を「タマン」や「アカジン」のような沖縄の方言名と思い込み、では和名は何なのかと尋ねておられたのだ。
そしてワタシは、さらに応える。
「サバヒーです。」
そう、サバヒーはサバヒー科サバヒー属のれっきとした標準和名で、この名で図鑑にも載っている。
聞くところによると台湾での呼び名をそのまま和名にしたそうで、英名ではまったく関係なくミルクフィッシュと呼ばれている。
その身がミルクのように真っ白なことからつけられた名前なのだとか。
身の色由来ということは、食材として利用されているということでもある。
日本ではサバヒーなんて魚種名は食材として聞いたことがないけれど、台湾、フィリピン、インドネシアといった国々では誰もが知っている国民食的水産資源だそうで、養殖も盛んに行われているという。
日本のスーパーでは庶民の白身魚としてわざわざ遥かアフリカから大量に輸入されたナイルパーチがズラリと並んでいるというのに、なんで近隣各国でお馴染みのサバヒーは誰も見向きもしないんだろう??
オトナになると150cmにも達するサバヒーは、デカい個体だと一瞬サメか?と戦慄が走る。
もっとも、水納島でよく出会うのは100cmほどで、4〜5匹で表層を泳いでいることが多い。
ごくたまに20匹くらいの群れになっていることがあり、それらが一斉に砂地の根に立ち寄ったりすると、サイズがサイズだけにかなり壮観だ。
根に立ち寄るといっても小魚目当てで襲い掛かるためではなく、どうやらホンソメワケベラのクリーニングケアを求めてのことらしい。
残念ながら20匹もの群れが根の周りにいるシーンは記録に残せていないけれど、2〜3匹ならこんな感じ。
やはり際立つそのデカさ。
ここにはイソマグロ御用達の大きなホンソメワケべラがいるからか、サバヒーが立ち寄っているのをよく見かける。
静止できないイソマグロがクリーニングケアを受けている際には、だんだん体が垂直になってくるのに対し、ちゃんと中性浮力をとって静止していられるサバヒーは、ホンソメクリーニングケア中も余裕のポーズだ。
でも彼らは表層付近を泳いでいることのほうが多いから、ダイビング中に自分がいる水深で彼らの姿を観る機会はほとんどないかもしれない。
姿が見えたところで、水深20mほどの場所から水面付近にいる魚に近寄れるはずはないので、海底付近に彼らが降りて来てくれている時はチャンスと思ったほうがいい。
その点岩場のポイントだと、根が長く沖に向かって伸びているから、その天辺あたりにいれば目線を通るサバヒーを観ることもある。
ただしこのサバヒー、砂底であれ岩場であれ、そうやすやすとは近寄らせてはくれないけれど…。