全長 60cm(写真は25cmほど)
シマアジといえば、数あるアジ類のなかでもずば抜けて美味しいとされる超高級魚だ。
そのためフツーに「シマアジ」とだけ書いて画像検索しようとすると、水揚げされた状態もしくは製品、または料理の写真が星の数ほど出てくることになる。
元クロワッサンのドレヤンとして働いてくれていたフカガワ水産でも、主力商品として活躍している。
そんなシマアジたちに、水納島でも出会うことができる。
ただし食材として流通するシマアジは40cm以上のサイズなのに対し、水納島で出会うシマアジといえば、大きなモノでもせいぜい25cmくらいでしかない。
なので水産物としてのシマアジをご存知の方からすると、25cm以下のシマアジなんて別の魚に見えるかもしれない。
光物でありながら砂底でエサを求めるシマアジたちは、砂地のポイントで出会うことができる。
砂地を群れ集うシマアジの群れは他のアジ類に比べてずいぶん涼し気で、たった10匹ほどといえど、夏の盛りに出会うと一服の涼風といった感さえある。
とはいえどこにでもいるというわけではないし、毎年観られるというわけでもない。
我々が水納島に越してきた95年前後にとあるポイントに10匹ほど常駐してくれていたシマアジたちは、その後数年も経たずに姿を消してしまった。
その後、ときおり数匹がアカヒメジの群れに混じっているのを見かけるくらいで、「群れ」というほどの数が揃うことがないまま、かなりの時が流れた。
そんなシマアジたちが久しぶりに戻ってきてくれたのは、2014年の夏のことだった。
まだ10cmそこそこの若魚たちながら、優に30匹を超える数のシマアジたちが、アカヒメジが常駐している根の周辺を根城にするようになったのだ。
こんなにたくさんいるシマアジなんて、それまでに観たことがなかった。
こりゃ今年のホットスポットだ!
…と盛り上がっていたら、あっという間に居なくなってしまった。
まるでお盆に合わせて帰省していた親族のよう…。
その後シーズンが終わるまで、2度と現れてくれなかったシマアジたちは、どういうわけかその年の暮れにリターンズ。
それもリーフ際に。
当時すでにリーフ際でアカヒメジの老成魚たちが群れるようになってはいたものの、普段リーフ際では群れを見かけない若魚たちがドドンと集まっていて、その群れと一緒にシマアジたちが群れ集まっていた。
その年の夏に出会っていた群れと同じかどうかは不明ながら(ポイントは同じ)、師走の海で思わぬ再会。
圧倒的にアカヒメジのほうが多いため、動画ではシマアジは脇役に徹しているけれど、リーフ際でも砂地の根の周辺でも、穏やかに群れているときはこのようにアカヒメジと混じっていることが多い。
同じような模様だし、普段は中層で群れていて、食事の時は砂底で…という暮らしも似ているから、一緒に過ごしていて何の違和感もないのかもしれない。
シマアジ数匹だけがアカヒメジに混じっている時などは、パッと見ではシマアジがそこにいると気づかないヒトもいるかもしれない。
↑この写真で、シマアジはどこにいるでしょう?
そうやってアカヒメジになり切っているからか、時には顔つきまで真似ようとしているフシがある。
さて、冬になって戻ってきてくれたシマアジたちは、翌年3月になるとアカヒメジともども再び砂地の根へと暮らしの場を移し、やや成長しつつさらに数が増えていた。
同じ場所でそのまま居ついてくれたこのシマアジたちは、その年のシーズン中ほぼずっと居続けてくれたので、夏の間は多くのゲストにシマアジの涼風を味わっていただけた。
夏の間はこうしてご案内するだけに終始したのだけれど、9月になってようやくカメラを携えて潜るチャンスを得たので、せっかくの涼しい風を……
パシャ。
まさに一服の涼風。
ところでシマアジたちは、少なくともこれくらいのサイズくらいなら他の大きなモノに寄り添う習性がある。
おそらく人生最初で最後の遭遇をした巨大タマカイ(大型冷蔵庫が泳いでいるのかと思ったほど)の頭の周りにも、5cmほどのチビチビシマアジたちが30匹ほど集まってパイロットフィッシュになっていた。
なので彼らが群れているところで静かにジッとしていれば、彼らのほうから寄ってきてくれるからわりと写真は撮りやすい。
ところが、彼らが群れている根の上空をミドルサイズのイソマグロが通りかかったときのこと。
シマアジたちは、すぐさまイソマグロ目掛け猛ダッシュした。
ミドルサイズのイソマグロはシマアジたちが寄り添うほどのサイズではないし、シマアジたちの動きもまた、大きなモノに寄り添おうとしているようにはまったく見えない。
見づらい動画で申し訳ないけれど、全員で力を合わせて闖入者であるイソマグロを撃退している様子がうかがえる。
いわゆるモビングと呼ばれる行動だったのだろうか。
寄らば大樹の陰生活に終始しているのかと思いきや、ここ一番では反骨の精神を見せる根性を持つシマアジたち。
2015年以降は、群れが観られる年があったりなかったりを繰り返しつつ、とりあえず今年(2020年)も群れてくれていた。
とはいえかつて10年以上群れが観られない時期があったことを思えば、いつまでも、いると思うなシマアジたち。
わりとコンスタントに会える今のうちに、涼しい風を堪能されることをおススメいたします。
※追記(2023年11月)
残念ながら現在(2023年)は群れていない。
この状況がまた10年以上続くのか、はたまた来年あたりまた復活するのか、それはわからないけれど、今年は希望の星に出会えた。
これは、ポイントごとに設置されているボート係留用の水中ブイについていたチビターレ。
光物のチビチビはなんであれ珍しいので可能なかぎり撮っておくものの、撮っているその場で種類がわかることは滅多にない。
ところがシマアジだとチビチビでも特徴の黄色い縞が出ているから、ひと目でそれとわかる。
ちなみにこのチビターレ、どれほど小さいかというと…
水中ブイについているエボシガイ(後ろの箒のようなもの)と比べてこのサイズ(3〜4cm)。
それほど小さいにもかかわらず、黄色いラインは肉眼でも見えた。
このようにチビチビがそこかしこで健気に頑張ってくれていれば、また涼しげな群れに会える日が来るかもしれない。