水納島の魚たち

シマキンチャクフグ

全長 8cm

 ノンダイバーの方がフグと聞いて思い浮かべるのは、たいていの場合食用として市場に並ぶ40cm前後の大きなものだろう。

 でもこのシマキンチャクフグのように、フグの仲間にはオトナになっても10cm前後にしかならない小型の種類が案外数多い。

 というか、むしろそれくらいのサイズのもののほうが多いかもしれない。

 小さいとはいえしっかり内蔵しているフグ毒は同じように強力なので、そう易々とほかの魚に食べられたりはしない。

 コクハンアラのチビやノコギリハギなどは、その特典の恩恵に与かるための擬態である、と昔から言われている(やや大きくなったコクハンアラ幼魚はサイズ的に無理がある気もするけれど…)。

 シマキンチャクフグ自身ももちろん自らの特典を熟知しているらしく、実にのんびり暮らしている。

 デートをするときも、他の魚たちの眼を憚ることはない。

 シマキンチャクフグのオス(右)とメスは、体のサイズ以外に違いは無いように見えるけれど、よく観るとオスの目元はメスに比べ、随分派手になっている。

 シマキンチャクフグのオス、なにげにオシャレ。

 また、メスに対してアピールしているオスは、体も随分気張っている。

 より大きく、強く見せようとするためなのだろう、力漲らせてお腹の下側を伸張させ、体高を高くしているのだ。

 メスにアピールしているときはお腹側のほうが目立つだけながら、これがオス同士のバトルになると…

 背中も大きく伸張させて決戦に臨む。

 体色も本来の黒帯模様が薄くなって、横縞模様が出てくる大興奮状態の色になりつつ、互いににらみ合う。

 そして相手の隙を見つけるや猛然と飛びかかり、鋭い歯でかみ合うバトルが繰り広げられる。

 その決闘の原因でもある彼女はというと、男の熱い思いなどはどこ吹く風という感じで、のんきに傍らで餌などつついていたりすることもあるけれど、ときには周りでただオロオロしていることもある。

 おそらくシマキンメスは歌っていたことだろう…

 〜♪
 けんかをやめて 二人を止めて
 わたしのために 争わないで
 もう こ・れ・い・じょ・う〜〜

 by 河合奈保子

 それでもシマキンオスたちは男の戦い、熱い火花を放ち続ける。

 健気にもメスは、オスのバトル現場にずっと寄り添い続けていた。

 けんかをやめてと歌いつつも、「わたしのために」争っている2人の姿を見て悦に入っていたりして、河合奈保子。

 ま、泳いでいる時はもちろん、エサを啄んでいるときもさほど目立たないそのおちょぼ口。

 この口でケンカしたってさほどのことは……

 …と思いきや。

 ほんの束の間、秘められた口の実力を垣間見せてくれることがある(アクビともいう)。

 ありゃりゃ、すんごい歯!!

 この歯で噛まれるとなれば本気も本気、そりゃ命懸けだわ。

 それにしても、この動画を撮ったのは水温が1年を通じて最も低い2月下旬のことなんだけど、こういうメスを巡るフグたちのバトルって、水温が温かくなってからのことだとばかり思っていたら、こんな低水温の時期でもホットなバトルを繰り広げていたのだなぁ、シマキンチャクフグ。

 梅雨頃にはもう産卵時期に入るのだから、そりゃあたしかに今のうちにパートナーはしっかり確保しておかなければならないか……。

 シマキンチャクフグの産卵シーンを目撃したことはないけれど、おそらくはハナキンチャクフグと似たような感じと思われる。

 ハナキンチャクフグの産卵シーンを観た後に手持ちの写真を物色してみたところ、シマキンチャクフグの↓このような写真が見つかった。

 おそらくメスが産卵しているところだと思われる。

 撮影者のオタマサもどうやら撮影当時から「産んでたっぽい」と言っていたようなのだけど、ではなぜオスの放精シーンは無いんだろう??

 この時オスが近くにいたかどうかの記憶は無いらしい…。

 ところで、普段気ままに泳いでいるときのシマキンチャクフグは、たいてい尾ビレを閉じている。

 でもずっと観ていると、ときどき尾ビレを開いた状態を見せてくれる。

 閉じているときを見慣れているから、こうしてパッと尾ビレを開いたところを見ると、けっこうカッコよく見える。

 そんなシマキンチャクフグにも、チビターレ時代がちゃんとある。

 Oh, プリティ♪

 純真無垢とはこのことだ。

 リーフ際でごくごくフツーに会えるオトナとは違い、チビターレはけっしてそこらじゅうにいるわけではない。

 春頃から時々観られるようになるチビターレ、出会えた方はそのチャンスをお見逃しなく。