全長 4cm
一昨年(2022年)、普段よく訪れる砂底の根で、早くもスカテンの群れがにぎやかになっていた梅雨時のこと。
流れがゆるく、アジ類などの外敵に襲撃されているわけでもないとき、スカテンたちは根から随分離れ、根を覆うように群れ集まっている。
一方スカテンに比べると少々薄茶色気味のクロスジスカシテンジクダイは、もっと根に近いところでキンメモドキに似た密集隊形の群れを作るので、平穏状態だと両者が入り混じることはあまりない。
でも我々ダイバーが近寄るとスカテンたちも警戒して根のそばまで避難するし、卵を口内保育中のスカテンパパたちは根からさほど離れないところで集まっているため、視野の中にクロスジスカシテンジクダイとスカテンが入り混じっていることもある。
なので、↓これも海中で観ていた際には、薄茶色っぽいのはクロスジスカシテンジクダイなのだろうと朧げに認識していた。
ところが、薄茶色に見えたスカテン似の魚を後刻PC画面で確認してみたところ、クロスジスカシテンジクダイとは異なるテンジクダイ類だった。
思わず「ん?」となるそのお姿。
なにがどう「ん?」なのか、既知のスカテンやクロスジスカシテンジクダイと比較してみよう。
まずスカテンことスカシテンジクダイは↓こんな感じ。
スカテンたちの尾ビレ付け根付近、そして尾ビレの上下端の点ポチは、その有無が個体ごとにいろいろなので、とりあえず無視してください。
で、クロスジスカシテンジクダイは…
…こんな感じ。
魚類分類学的に重要な差異を詳細に渡って挙げることはできないながらも、既知の両者と異なる種類っぽいことは、本能的に見えてくる。
ひょっとして世間ではとっくの昔に知られているナニモノかだったりするのだろうか。
さっそく調べてみたところ、日々是新な魚類分類額の世界におけるスカシテンジクダイ周辺の事情は、ワタシが十年一日のごとくのんびり暮らしている間に、いつの間にか大変なことになっていた。
これまでスカシテンジクダイ属の魚はスカシテンジクダイだけだったところ(クロスジスカシテンジクダイはクロスジスカシテンジクダイ属)、近年になってポン、ポンと2種類が加わっていたのだ。
そのひとつがシンゲツスカシテンジクダイ。
ただ、それがザ・スカテンとなにがどう違っているのか、世間に出回っている数少ない画像と説明だけでは、ワタシのようなシロウトにはよくわからず、ヘタをするとこれまで長年に渡ってスカテンと紹介してきたものは、実はシンゲツさんだったのか…と焦ってしまった。
ちなみにシンプルだったものをコンプリケイテッドにしているのは、例によっていつものごとく漢字20文字研究所のオシゴトであることは言うまでもない。
シンゲツさんと同じくスカテン界の新参者になっていたのが、ソウリュウスカシテンジクダイ。
今回「ん?」となったスカテンは、どうもこのソウリュウスカシテンジクダイっぽい。
たまたまこの個体だけにあるのかなと思われた胸ビレ付け根ちょい上の小さな黒点は、どうやらこの種の特徴のようで(複数あったりひとつも無い場合もあるけど)、さらにもう少し成長すると、尾ビレの上下端にタカサゴのような黒ポッチリがつくようだ。
ただしこの尾ビレ上下端のポッチリも胸ビレ上の小さな点も、有ったり無かったりで甚だ心もとない。
心もとないながらもその後注目していたところ、その根ではなにげに暫定ソウリュウは数多く、先ほどの写真のようにペアになっているものもいて、それらペアはたしかにスカテンのペア集団とは別行動をとっていた。
結局秋までのシーズン中、ずっとその根に居てくれた暫定ソウリュウスカシテンジクダイ。
これまでもそこにいたのにワタシが気づいていなかっただけなのか、それともたまたま今年流れ着いただけなのか。
翌年以降パッタリ姿を消してしまったところを見ると、どうやらその年限定の来遊者だったようだ。
1シーズン限定登場のこのテンジクダイは、ホントにソウリュウスカシテンジクダイなのだろうか。
いまひとつ決め手を欠いているため、もうしばらくペンディングしておこう…
…と思っているうちに2年経ってしまった。
いまだ確信は持てないままながら、どう見てもスカテンとは異なるその姿。
これ以上先延ばししていたらワタシの豆腐脳はこの魚の存在を忘れてしまいそうだから、とりあえず暫定的にラインナップに加えておくこととしよう。
そういう次第なので、同じようにお悩みの皆様方におかれましてはけっして同定の参考にはなさらないよう、くれぐれもお気をつけください。