全長 15cm
単独で暮らすタイプのテンジクダイの仲間といえば、どれほどフツーに観られるものであっても…いや、あまりにもフツーに観ることができるからこそ、多くのダイバーにとってはほぼエキストラ出演程度の存在感しかない。
そのため多くのテンジクダイ類は、ログブックに記載されることも無ければ、記憶に残ることすら滅多にない。
けれどもこのスダレヤライイシモチやリュウキュウヤライイシモチとなると、同じエキストラテンジクダイのなかでは相当な印象派といえるかもしれない。
なにしろデカい。
我々が学生だった頃(80年代後半)にはリュウキュウヤライイシモチと一緒くたにされていたものが、90年代になってからキッチリ区別され、スダレヤライイシモチという別種になった。
ところが「リュウキュウヤライイシモチ」という名でインプットされて以来リセットすることがなかなかできない我が豆腐脳は、齢を重ねるにつれどっちがスダレでどっちがリュウキュウだったのかごっちゃになってしまう。
なので、ときどきゲストには逆の名前で案内してしまっているから、どうぞみなさんご注意ください。
ワタシにダマされないようにするためにも、ゲストは自力で見極めねばならない。
両者を見分けるには、その尾柄部を見るとわかりやすい。
スダレヤライイシモチの尾柄部には白い帯があるだけなのに対し、リュウキュウヤライイシモチのそれには、うっすらと白くなっている上に黒い帯がある。
なんだ、これだったら見分けるの簡単じゃん!
しかしそうは問屋が卸さない。
詳しくは上記リンク先のリュウキュウヤライイシモチの稿にて……。
さて、水納島のスダレヤライイシモチは、リーフ際のオーバーハングの下や、砂地の根の周辺といったところにいる。
リーフ際では、すぐに暗闇に逃げ込めるところにいることが多い。
一方砂地の根では、たいてい日の当たる表に出ている。
砂地の根は隠れ家だらけだから、こうして表に出ていても、いつでも暗闇に逃げ込めるということもあるのだろう。
ヤライイシモチの仲間は、スカテンのように群れることがないけれど、ひとつの根に多数が集まっていることはある。
そのような根では、毎年5月くらいになると、スダレヤライイシモチのオスが顎を目一杯膨らませた姿をよく目にするようになる(彼らの繁殖シーズンスタートは3月半ば過ぎくらいな感じ)。
卵を口に含んでいる様子が、もう見るからに一生懸命。
メスが産む卵の量が多いからか、卵を口一杯に収納しつつ口を閉じると、一杯いっぱい感が半端ではない。
こうして懸命に歯を食いしばって口を閉じていても、呼吸をするために口をハウハフするだけで……
産みたてっぽい卵が随分見える。
例によって口元アップ。
それにしてもこの犬歯!!
ヤライイシモチの仲間はこの犬歯(?)が大きくスルドイのが特徴で、スダレヤライイシモチも他の例にもれず狂暴そうな歯がズラリと並ぶ。
そんな強力な武器があるからか、スダレヤライイシモチのオスは、わりと単独で卵保育をしていることが多い。
しかしときにはメスが献身的に寄り添っていることもある。
おかげでオスも、安心して口を大きく開け、卵を口内でフゴフゴさせて新鮮な水を行き渡らせることができるのかもしれない。
このときは産みたてだった卵は、一週間後再び訪れてみると………
卵はすっかり育っている。
アップしてみると……
お目目がキラキラ♪
ただしみんながみんな同じタイミングで産卵するわけではないらしく、同じ日に撮った写真には、産みたて卵を保育しているパパもいた。
そうやってイクメンパパに保育され、無事孵化したチビチビたちがどこでどのように過ごしているのか知らないけれど、夏には砂地の根のそこかしこで、幼魚の姿を観ることができる。
幼い頃のスダレヤライイシモチは、尾柄部にヤライイシモチのような模様がある。
これくらい育っている若魚だとスダレヤライイシモチであることがわかるけれど、もっと小さい頃となると、ワタシにはヤライイシモチと見分けがつかない。
かろうじてスダレヤライイシモチ認定できるミニマムサイズはこれくらい。
眼を通っているラインのすぐ上にうっすらともう一本出始めている段階(このチビをずっと観ていると、近くで群れていたアオギハゼに素早く突っ込んでいった。ゲットはできなかったようながら、その動き、さすがプレデター)。
ちなみに同サイズのヤライイシモチのチビはというと…
同部分にラインは出てこない。
ただしこれよりも小さなスダレイシモチチビターレは、ヤライイシモチと区別がつかないので、ひょっとしたら、ヤライイシモチの稿でチビと紹介しているのは、実はスダレだったりするかも……。
ヤライイシモチの稿で紹介したとおり、ヤライイシモチの尾柄部の黄色地に黒点模様はオトナになってもそのまま残るのに対し、スダレヤライイシモチの場合は、もう少し成長すると薄くなる(別個体です)。
さらに成長すると(別個体です)……
黄色かった痕跡がうっすらと残る程度で、ほぼ白くなる。
繁殖期間中に繰り返し産卵・口内保育が行われているだけあって、夏から秋にかけての砂地の根では、各段階に育った若魚を観ることができる。
口内保育をはじめ、注目してみると見どころたくさんの魅力的な魚、スダレヤライイシモチ。
でもやっぱり、この先もずっとエキストラ人生を歩むに違いない…。
※追記(2021年11月)
コロナ禍のおかげでとってもヒマだった2020年の初夏には夜にも潜ることができていて、その際砂地の根から5mは離れた砂底に、ポツンと1匹見慣れぬテンジクダイ系の姿が見えた。
過去の経験から、テンジクダイの仲間もまた、夜になると昼間とまったく体色を変える…ということは知ってはいたけれど、こんなに真っ白シロスケだと正体などさっぱり不明だ…
…と思いきや。
よく観るとうっすらと見えてくるその模様は、スダレヤライイシモチではありますまいか?
こういうところに目立たない色でジッとしているのは、夜陰に紛れてフラフラ歩いてくる小動物をパクリッ!という作戦なのだろうか。