全長 10cm
ミツボシキュウセンの仲間(Halichoeres属)の魚たちは古くから知られているものが多いのだけど、このツキベラがアカデミズムの分野で新種として世の中にデビューしたのは比較的新しく、1999年のことになる(ちなみにミツボシキュウセン Halichoeres trimaculatus は1834年)。
1999年といえば、我々夫婦はもう水納島に越してきて5年目を迎えている頃だから、「最近」といってもいいくらいだ(ちなみに現在は2021年ですが…)。
なにゆえデビューが遅くなってしまったかといえば、そっくりな他の仲間と混同されていたからにほかならない。
ツキベラにそっくりといえば、まず思い浮かぶのはニシキキュウセンだ。
なんだ、アカデミック変態社会のセンセイ方も、「ベラはベラ」だったんじゃねーか…。
< 違うと思います。
晴れて20世紀最終盤に新種としてデビューしたツキベラ、では同じような模様をしているニシキキュウセンとどこがどう違うのかというと、ベラ変態社会御用達図鑑「ベラ&ブダイ」によると、区別のポイントは顔にあるそうだ。
写真では区別しようもないくらいの差異しかないために我々シロウトが見分けられない魚たちがたくさんいるなか、ミツボシキュウセンの仲間たちは、「みんな同じように見える…」と言われているわりには、ちゃんと観ると違いがとってもわかりやすい。
ツキベラとニシキキュウセンも、上のチェックポイントさえふまえれば、海中で観察中にすら区別は容易だ……
……な〜んちゃって。
なにしろワタシ、ニシキキュウセンとキチンと区別したうえでツキベラを観たこともなければ、写真を撮ったことも一度もない。
冒頭の写真は、普段滅多に行かないポイントの浅場でこのベラが妙に目立っていたから、たまたま数枚ほど撮っただけだったりする。
目立っているように見えたのは、春になってようやく繁殖期を迎えてやる気モードになっていたからだろうか。
今回ミツボシキュウセンの仲間たちの写真をまとめて見てていた時に、
ん?
と気がついたのすら、キセキだったかもしれない。
というのも、小笠原あたりではフツーに観られるというこのツキベラは、沖縄方面ではけっこうレアらしいのだ。
一方で慶良間あたりではたくさんいるという情報もあるのだけれど、少なくとも本島近海では「レア」ということになっているツキベラ。
ひょっとしたらツキベラのオスとの出会いはワタシにとって人生でこれが最初で最後だったかもしれず、その千載一遇のチャンスを
「あ、ニシキキュウセンね…」
で完全スルーしていたら、出会ったジジツすら闇に葬り去られてしまっていたことだろう。
たまたま写真を撮っていたにしろ、ニシキキュウセン認定撮りっぱなし放置プレイだったら、ここで日の目を見ることはまずなかった。
なにはともあれまさかのツキベラゲット、水納島でのレア度を考えれば、これを神懸かっているといわずになんといおう。
なので、同じ年(2019年)に別の場所で撮った若魚もしくはメスの写真も、まったくの偶然であることはいうまでもない。
残念ながらチビターレについてはこれまで一度も神様が降りてくれてはいなかったらしく、過去に撮ったこのテのベラのチビターレ写真を見直してみても、ツキベラらしき姿は無かった。
というわけで、このオフシーズン(2020年〜2021年)は〇〇キュウセン系のチビターレを見ればパシャパシャ撮っているのだけれど、今のところ百発百中でニシキキュウセンだ…。
ニシキキュウセン、多過ぎ。
ツキベラは高望みにすぎるにしても、他の〇〇キュウセンがいたっていいのに…。
ニシキキュウセンのチビターレと他の〇〇キュウセンたちとは、根本的に居場所が違うのかなぁ…。
はたして今後、チビターレに会うことはできるか。
そして、オトナを海中でちゃんと認識することはできるか。
追記を待て。
※さっそく追記(2021年1月)
2年前にツキベラと遭遇していた(と2年後に知った)同じ場所にさっそく行ってみた。
すると……
いた!
海中でちゃんと認識することはできるか…なんて書いたけど、いやはや、こりゃニシキキュウセンとは全然違いますぜ。
浅いリーフの上にいるところからしてニシキキュウセンとは違っているということはともかく、それ以前にこの姿、海中で自然光で見るとメタリックグリーンに見えて、やたらときれいなのだ。
ツキベラの「ツ」の字も意識せずにいた2年前に、どうして写真を撮っていたんだろうと我が事ながら不思議だったけど、その理由がやっとわかった。
きれいだったのだ。
残念ながらストロボ光で横から照らしていたためか、撮った写真は肉眼で観ていた輝きがすっかり消えてしまっているものの、同じ場所にいたメスに対してアピールしているところを撮っていたら、メタリックっぽさがかろうじてほんの少しうかがえるものがあった。
これは光の角度というよりも、興奮モードの時の発色なのだろうか。
ちなみにこのときオスにアピールされていたメスは↓こんな感じ。
色柄は疑うべくもないミツボシキュウセンの仲間でありながら、メスへのアピールの仕方やオスの発色の雰囲気は、なんだかイトヒキベラ類を観ているかのようだった。
その後5月にもいい感じの色を出している子がいたので、メスにアピールしようとしたのか傍に寄ったタイミングでパシャ。
横から光を当てると、また違った色になるみたい。それともこれは興奮モードではないのだろうか。
様々な色味に変化はしても、実際に海中で観てハッキリしたことがひとつ。
ツキベラは、海の中でこそ一見の価値あり。
少なくとも周辺10m四方くらいの範囲にはオスメスどちらも他のツキベラの姿は見えなかったものの、会おうと思えば会えることがわかったのは収穫だ。
※さらに追記(2021年2月)
オトナは砂地の根では観られずとも、チビとなると話は別のようで、水深15mほどの根の片隅に、ニシキキュウセンやクロヘリイトヒキベラのチビたちに混じって、ツキベラのチビターレも泳いでいた。
これで3cmほど。
チビターレには、体の真ん中を通る白いラインがあるようだ。
なるほど、砂地の根でもチビターレなら遭遇チャンスはあるわけか…。
※さらにさらに追記(2021年7月)
初夏ともなればいろんなチビターレが湧いてくる季節となり、6月にはようやくツキベラのチビチビにも会うことができた。
2cmほどのチビターレ。
3cmサイズになると途切れがちになる体側中央の白いラインは、この頃だとビシッと一直線に繋がっている。
オトナ同様、これくらいのチビターレでもやっぱりひと目でニシキキュウセンと区別可能だ。
そんな両者を長い間混同していたなんて………どうやらアカデミズム変態社会も「ベラはベラ」だったに違いない。