水納島の魚たち

ウメイロモドキ

全長 25cm

 トロピカルだ亜熱帯だといえば、とかくカラフルなイメージになる。

 魚たちもたいがい色彩豊かなものが多くなる傾向にあるけれど、各種ベラ類の色柄模様を例にとるまでもなく、ときとして暑苦しささえ覚えるほどのクドくド派手な魚まみれになることもある。

 そんななか、白い砂底の上をサーッと群れ泳ぐウメイロモドキたちの姿は、まさに一服の涼風。

 ボンヤリ眺めているだけでも、なんとも心地いい。

 そんな爽やかにステキな魚に「モドキ」呼ばわりはないだろうってなところながら、これはウメイロモドキが属するタカサゴ科と縁戚にあたるフエダイ科に、ウメイロモドキと色柄がそっくりな魚がいて、それにひとあし早く「ウメイロ」という名前が付けられていたことによる。

 ウメイロとはすなわち梅色のこと。

 しかしワタシは長い間、ウメイロが釣り上げられると赤くなって梅干色になるから……だとばかり思っていた。

 ところがウメイロの梅色とは、体に走る黄色い模様の色合いが、熟した梅の実の色に似ているから、なのだとか。

 ニセカンランハギの橄欖(かんらん)にも驚かされたけど、この梅色もまったくの予想外でビックリ。

 あいにく水納島では観られない本家ウメイロには、かつて八丈島で出会ったことがある。特に八丈小島付近ではやたらと群れていた。

 当時このテの色をした魚といえばウメイロモドキしか知らなかったワタシは、ウメイロモドキにしてはやけに黄色い部分がクッキリハッキリしているなぁ、地域差なのかなぁ…と感じたものだった。

 その感想を、後日キツネアマダイの稿にも登場する魚類分類学の大家Y先生に伝えたところ、

 「それはウメイロですな」

 ナマで観てから随分経っていたのに、訊けば即答でようやく正体を知ることとなった。

 ウメイロは水納島には居ない代わりに、ウメイロモドキとはよく出会う。

 ただし小笠原やモルディブあたりで観られるような、とんでもなく密集隊形の巨群というわけにはいかず、50匹くらい群れていたら「おお…」っていうくらいの数でしかない。

 でも先述のとおりたとえ50匹でもウメイロモドキの群れが白い砂地の上を通り過ぎる際の涼感は半端なく、そんなところに小笠原バージョンの巨群状態で通過されたら、むしろ暑苦しさを覚えるかもしれない(観てみたいけど)。

 他のグルクンの仲間と同じように、ウメイロモドキたちは中層〜上層にお食事ゾーンがあって、適度に流れがある時などは、流れ来るプランクトンを食すべく、そういったところで群れ集っている。

 なので、底にべっとり這いつくばり系のベントスダイビングをしていると、彼らが何かの拍子に舞い降りて来てくれない限り、その姿を間近で眺める機会はない。

 その点、昔ながらの広範囲遊泳系ダイビングで、グルクンたちと同じように中層をプイ〜ン……と漂うと、群れ集うお食事中の彼らを間近から眺められ、異物体(我々ダイバーのことね)が近づくと警戒して集合する美しい群れの姿も眺めることができる。

 もっとも、上層にイソマグロが通過して行ったり、心無いバカタレボートが高速でかっ飛ばして行ったりすると、ビックリしたウメイロモドキたちが、根のあたりまで下りて来てくれることもある。

 そういう場合はしばらくダイバーを取り巻いてくれたりもするから、束の間、なんともシアワセなひとときになる。 

 何も深いところだけではなく、ウメイロモドキたちはリーフの上やリーフエッジにもやってくる。

 特に夕刻は寝床決定時間だからなのか、他のグルクンたち同様日が傾くとリーフ際を群れ泳ぐシーンが増えるから、遅めの午後だったら出会う機会が増す。

 水納島の場合、数は多くは無いものの居ついている群れはだいたい同じ場所に居てくれるから、流れの向きに応じて場所を選べばたいてい出会える。

 逆に言うと、砂地のポイントならいつでもどこでも出会える、というわけではなく、出会わないところではまったく出会わない。

 また、数が少ないせいか、低層に舞い降りている時には他のグルクン類と混成部隊になっていることも多い。

 食べるものも泳ぐ場所もほぼ同じ魚たちなのだから、一緒に居ても不思議ではないとはいえ、スーパー巨群になる小笠原やモルディブでも、こういった混声合唱団的魚群になるんだろうか?

 そんなウメイロモドキたちがどこでどのように繁殖しているのかについてはまったく知らないけれど、毎年梅雨頃になると、根のそこかしこでウメイロモドキのチビターレがポツポツ姿を現し始める。

 もう少し成長すると、ウメイロモドキっぽくなる。

 5cmくらいのこの頃でも、周囲にはせいぜい2、3匹いる程度なのに、さらに成長して10cm弱くらいになると、どういうわけだかいつの間にやら根の傍らで10〜20匹くらい群れるようになっている。

 まばらにしかいなかったものが、どうやって出会ってるんだろう?

 図鑑的な説明では、ウメイロモドキは30cmから40cmくらいになるそうなのだけど、水納島で群れているウメイロモドキは25cmくらいのものが多い。

 捕食圧が高すぎ、オトナになりきる前に消えていっているのだろうか。

 小笠原やモルディブのような密集スーパー巨群とまではいかずとも、ウメイロモドキたちの涼風は、いつまでも味わっていたいなぁ……。