全長 3cm
ウミタケハゼの仲間は種類が多く、一部を除いて区別をつけにくいため、ぜ〜んぶまとめて「ウミタケハゼ」ってことにしたくなる。
ただ、観察期間も長くなってくると、なんとなく他との区別がつくようになってくる。
水納島では砂地のポイントのわりと深いところで見られるこのウミタケハゼの仲間もそのひとつ。
当初はたまたまウミエラについているセボシウミタケハゼかな…と軽く考えていたのだけれど、背ビレをよく観るとセボシウミタケハゼの特徴を有しておらず、オトナになるとけっこうでっかくなる。
ではスケロクウミタケハゼなのかな…と思いかけたものの、顔つきから何から随分違って見える。
水深30m超の海底にニョキニョキ生えているウミエラ(通年観られるわけではない)を宿主にしているほか、各種のカイメンに乗っていたり……
ホヤの仲間にチョコンと乗っている姿が観られるこのウミタケハゼの仲間。
いずれも水深30m以深の海底付近で、水深的にそうそう長居できるものではないからじっくり長時間観続けることができないのだけれど、このウミタケハゼの仲間がずっと長い間住み続けている場所があって、オタマサはヒマさえあればそこを訪れて写真を撮っている。
すると、そのうちにあることに気がついた。
ホヤの仲間の上に乗っているところを撮ったこの写真、よく観ると卵が産みつけられていたのだ(矢印の先)。
卵のアップ。
そして同じ日同じ時同じ場所で撮った(2012年9月)、別の種類のホヤに乗っていたウミタケハゼの仲間もまた…
お腹の下で卵を守っていた。
なるほど、このウミタケハゼの仲間たちは、宿主の表面に卵を産み付けるのか!
…とわかった以上、その後も観察するのなら、産卵していないかどうかも含めてチェックしそうなもの。
ところがオタマサときたら、その後も冬であろうと夏であろうと、撮った写真を見ては…というか、ワタシが写真を見せてもらって初めて卵があることに気がつく、というケースが相次いだ。
以下、このウミタケハゼの仲間のオタマサタマタマ記録。
↓2019年7月撮影。
それまでは別の種類かな?と思っていた小柄な黄色いタイプの子と仲睦まじげに寄り添っているなぁ…と思ったら、パソコンモニターを見てビックリ。
ペアで卵を守っていた(もしくは産卵中だったか)。
産卵は夏だけのことなのかと思いきや…
↓2020年1月撮影。
このお腹の下には…
…タマタマが。
これより半月前には…
その胸ビレの近くには…
随分発生が進んでいるタマタマが。
ウミタケハゼの仲間はこの場所には3〜4匹くらいしかおらず、もし卵を守っているオス(?)が同一個体だとすると、真冬にもかかわらずかなりサイクルが早い繁殖周期ってことになる。
このあたりでようやく「卵を守っているかもしれない」ということを撮っている時にチェックするようになったオタマサは今年(2020年)3月、ようやく産卵しているところに遭遇することができた。
いつになく密に身を寄せつつ、互い違いになりながら小刻みに体を動かしていたペア。
そのその体の下を覗き見ると…
やっぱりタマタマ!
一仕事終えたペアは、ジッと卵を守っていたそうな。
このようにペアでいるところを観ることができたおかげで、先述のように黄色っぽい個体もどうやら同じ種類らしいことがわかってきた。
なので、かつてウミエラについていた↓この黄色い小柄なウミタケハゼの仲間も…
きっとこのハゼの子供の頃のバリエーションなのだろう。
…と、かつて不明だったことが少しずつ明らかになってきたのはいいのだけれど、ただひとつ大きなモンダイが。
結局このウミタケハゼの仲間は、なんて名前なの??
名前がわかっているつもりになっているセボシウミタケハゼでさえ、20年くらい前に専門家に伺ったところによれば、近い将来別種になるものが数タイプあるような話だった。
だからこそ長い間、ウミタケハゼの仲間は「かかわりあってはいけない」魚にしていたのである。
なにしろ書籍名に「決定版」とつけられている「日本のハゼ」( 平凡社:刊)を観たってわからないのだから、もはやどうしようもない。
この「日本のハゼ」の大規模増補改訂版が、満を持して今年(2021年)刊行されたものの、やはり「ビンゴ!」な該当者は見当たらず。
宿主や環境に応じて色味が随分変わるから、実際に海中で観ているものとまったく同じ色味のものが図鑑に載っていないのはしょうがないにしても、似ている…と思えるものすら見当たらないのはどういうわけなんだろう…。
しかたがないので、ここでは「ウミショウブハゼ属の1種」とするほかない(ウミタケハゼの仲間はみんな、ウミショウブハゼ属になります)。
ひょっとしてこれらは実はスケロクウミタケハゼだとか、セボシウミタケハゼだなんてことはないですよね?