(ホシエイ?)
全長 300cm
2012年の春は、低水温の海の中でホヤの中にいる小さなクリーチャーなどを撮ったりして、変態的に盛り上がっていた。
そんなおり、わりと深めの砂底に目をやると、砂煙がモウモウとたちこめる中から1本の長い棒が斜めに突き出ていた。
よく観るとその棒、動いている。
なんじゃらほい…と近づいてみると、なんとなんと、それはエイではないか。
それが冒頭の写真。
砂地で砂煙を上げている、尾ビレがこういう形状のエイといえば、そりゃヤッコエイでしょう。
この写真だけだと、多くの方がそう推断されるに違いない。
しかーし!
この物体、頭の先から尻尾の先までのサイズ、およそ……
3m!!
圧倒的に巨大である。
もしこれが通常サイズのヤッコエイなら、ワタシはただちにニルスの不思議な旅をしなければならないところだ。
このエイは、ヤッコエイではなくておそらくウシエイと思われる。
ヤッコエイとは、背中から尾ビレにかけての↓この部分がまったく違う。
ギザギザになっているのだ。
過去に1度出会ったことがあるウシエイらしき巨大エイは、砂底から1mほど上でホバリングしていた。
その時もかなりの迫力だったけれど(残念ながら写真はない)、こうしてヤッコエイのように砂底をバッホバッホと物色している様子はとんでもなく大迫力。
この後ウシエイが泳ぎ去っていったあとには、まるでキヘリモンガラの産卵床のような巨大サイズの餌漁り跡が残っていた。
マダラエイを凌駕するこんな巨体を維持するために、彼はいったい砂中の何をどんだけ食べているんだろう??
ヒトに危害を加える魚ではないとはいえ、さすがにこれほどでっかいものがアクティブに動いていると、ややプレッシャーを感じる。
プレッシャーを感じながら恐る恐る撮ったものの、惜しむらくはせめてこの時ポッケにコンデジがあれば…。
なにしろホヤの中のムシを撮るようなレンズ装備だったから、千載一遇にもかかわらず、例によってヘナチョコ写真しか残せなかった。
それにしてもこのポイントは、過去に3.5mのニタリ(写真はない…)、同サイズのトンガリサカタザメ、そしてこのウシエイと、そうそう観られないものに出会えるホットスポットだ。
その頻度がものすごければ、我が家はお客さんだらけで御殿になっているところながら、いずれも一生に一度級の出会いのため、写真記録すら満足に残せないのだった…。
ところで、背中から尾ビレの部分がギザギザの巨大スティングレイといえば、「ウシエイ」しかいないだろうと思っていたら、よく似たエイに「ホシエイ」というものもいた。
体の表面に点々模様があることでウシエイと見分けられるのは若い頃までで、成長すると星模様は消えるらしい。
また、魚類分類学のアカデミズムの世界では、「ウシエイ」は、三河で得られた標本をもとに記された記載論文以外に、その後標本を得られていない「幻のエイ」だそうで、多くの釣り人が釣っている巨大エイも、水族館などで「ウシエイ」と表記されている大きなエイも、ほぼホシエイである可能性が高いそうな。
なのでこの稿のエイも、ひょっとしたらホシエイかもしれない。