水納島の魚たち

ワカウツボ

全長 60cm

 これまたハナビラウツボにそっくりに見えるワカウツボ。

 ただしワカウツボは温帯域に適応した種類のようで、ネット上では伊豆など本土の海で撮影されたものが目立つ。

 そのため水納島ではその姿を見かける機会は滅多になく、リーフ際のオーバーハングといった日陰になっているところから、小ぶりな顔を出しているのをたまに見かけることがある程度だ。

 アデウツボほどのレア度ではないにしろ、出会えればラッキーなワカウツボ、千載一遇のチャンスにもかかわらず「ハナビラウツボね…」でスルーしてしまうことがないよう、見分け方は覚えておきたい。

 ハナビラウツボに比べると、ワカウツボの斑点の色は黄色っぽいので、全体のイメージも黄色っぽく見えるから、慣れればひと目で違いがわかるほど。

 でももっと確実なのは、例によって口の中だ。

 ハナビラウツボは真っ白、アデウツボは真っ黄色。

 そしてこのワカウツボは……白地に黒い斑模様。

 これでもう一目瞭然だ。

 ……といいつつ、一目瞭然の写真が手元に無いくらいだから、そういつも口を大開きにしてくれるわけではない。

 でもご安心あれ。

 ワカウツボの口は上下の顎がトラウツボのように湾曲するため、口を閉じても上の写真のように狂暴そうな隙間ができる。

 ハナビラウツボもアデウツボも顎のラインはまっすぐなので、口を閉じると……

 …真一文字にキリッと引き締まる。

 これでもう、口を開けていても閉じていても、両者を見誤ることはない。

 ところで、水納島で見かけるワカウツボは小柄のものが多い。

 ひょっとして、目にするのは若い子ばかりだから「若」ウツボって名前になったのだろうか……。

 若いワカウツボはサビウツボくらいのサイズで、それでいて黒地に黄色い斑点が散らばっている体色のため、なかなかかわいく美しい。

 しかもリーフ際の陰になった部分にはイボヤギ類が多く、それらが開いていると、まるで花園にポッカリ現れたメルヘンウツボって雰囲気になる。

 また、出会う機会が少ないというのに、たまにこういうシーンに巡りあうこともある。

 ワカウツボが2匹仲良く顔を出しているなんて、ハナヒゲウツボを100回見るよりもチャンスは少ないかもしれない。

 間違っても、「ハナビラウツボね…」でスルーしてはいけない。

 追記(2020年12月)

 今夏(2020年)、久しぶりにワカウツボが2匹でいるところに遭遇した。

 でも……

 …体格差ありすぎ。

 こうなると「仲良く2匹」なんだかイジメてるだけなんだか……。

 でもこの戯れだかイジメだかはしつこく続かず、大きい方が離れていくと、チビはナニゴトもなかったかのようにケロッとしていた。

 通りすがりの挨拶のようなものだったのだろうか?