全長 30cm
クチナガイシヨウジやオビイシヨウジなど、よく見かける底生のヨウジウオたちは、その細い体をスルスル滑らせたり、時にはクネクネさせて移動する。
ところがこのワカヨウジは、スルスルもクネクネもしない。
それどころか、硬直してジッと動かざること枯枝のごとし、無造作にポツンと砂地にいることが多い。
このままほとんど動かないままでいることもザラだ(実際は微動してます)。
ヨウジウオの仲間にあってはオトナになると30cm超と随分大きく、これが魚だとわかっていればイヤでも目立つ。
しかしワカヨウジはほぼほぼただジッとしているだけだから、魚と知らずに遠目に見れば、木の枝が1本ポツンと落っこちているとしか思えない。
小枝のフリをして外敵を欺くという意味では、シャクトリムシのようなヨウジウオなのだ。
初めてこの魚を見たのはフィリピンはセブ島近くのアロナビーチに行った時(@1997年)で、一面藻場のリーフ内でチラホラ見られた。
その時はてっきり海外ならではのヨウジウオだとばかり思い込み、この先水納島では出会うことはないと思えばこそたくさん写真を撮ったのに(当時はフィルム…)、後日それほど時を置かずに、水納島でも出会ってしまったのだった。
それどころか、図鑑に記載されている撮影地によると、本土でもちょくちょく見られるヨウジウオであるらしい。
いずれの場所でもやはり浅所の砂底って書かれてあるところを見ると、陸の木の枝が海底に沈んでいても不思議ではないような浅いところ、つまり枝のフリをして効き目があるようなところでしか生きられない、ということなのだろうか。
木の枝である以上、余計な飾りは不要なのか、他のヨウジウオ類に見受けられる派手な皮弁など一切無いシンプルな顔をしている。
顔はシンプル、体はでかい、それでいて特徴的な動きをするわけでもないワカヨウジは、ただそれだけを観ると退屈な魚と言われても仕方がないけれど、その実態は、「忍法・枝のフリ」の達人なのである。
一方、浮遊生活を送っているらしき幼魚は、これが同じ種類かと思わず目を疑うほどに、宇宙生物的皮弁(?)がついている。
特に尾ビレ周辺は、その後のオトナの姿など微塵も想像できない様相を呈している。
今のところ最初で最後の出会いで終わっているその皮弁付きワカヨウジの幼魚、今でこそそれがワカヨウジの幼魚であることをワタシは知っているけれど、当時(2009年)は海中でも図鑑でもまったく目にしたことがなかった謎のヨウジウオ。
間違いなく新種発見に違いない!と、例によって勝手な思い込みで一人盛り上がったのはいうまでもない(「クワネドタカヨウジ」という名前を勝手につけつつ)。
が。
あいにくゲストをご案内中のこと、ゲストはカメラをお持ちではなく、ワタシはポッケにコンデジを忍ばせているわけでもなかったから、このままでは記録に残せなくなってしまう…。
そんなとき、高級一眼レフを携えたかねやまんさん@セルフの姿が。
シチュエーション的には、ホワイトナイトの登場だ。
そして半ば無理矢理撮っていただいたのが↓こちらの写真。
撮影:かねやまんさん
この稿をリニューアルするに際し、この写真の掲載についてはご本人にお断りしていないのだけど、当時の「最近のログ」コーナー掲載にはご快諾いただけたので、その了承は今も継続しているものと勝手に思い込んでおく。
それはそうと、この時にはワタシのリクエストに応えてくださり、何枚も撮ってくださったかねやまんさん。
しかしそのすべての写真は、この尾ビレ周辺だけなのだった……。
なので全身が写っている写真はないものの、全長は15cmほどだった。
ちなみに3cmほどのホントの浮遊生活チビターレだと、首のあたりにも宇宙生物的皮弁がヒラヒラ〜とついているらしい。
ところで、本稿リニューアルに際して過去に撮った写真をふりかえっていると、上のヒダヒダ付きワカヨウジの幼魚と出会った翌月に、↓このようなヨウジウオに出会っていた。
そばに生えているウミヒルモの葉と比べても、さほどの大きさではないこのヨウジウオ、長らく種不明の謎のヨウジウオ扱いにしていた。
ところが今回その顔をつぶさに観てみると……
あれ?
顔の輪郭といい口の形状といい、ワカヨウジなんじゃね??
このひと月前のヒダヒダ付き幼魚と同一個体である可能性は限りなく低い場所であることを考え合わせると、このほかにもワカヨウジの若魚がポツポツいたのかもしれない。
ひょっとするとこの年(2009年)は、フィリピンあたりからワカヨウジの幼生が大挙沖縄方面に流れ着いていたのかもしれない。
この若い若いワカヨウジ、やはりあんまり動かないものだから、真正面から好き放題撮らせてくれた。
じっくり観てみるとワカヨウジ……
実に変な顔である。