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ゆんたく!島暮らし

写真・文/植田正恵

216回.庭のアマリリスたち

月刊アクアネット2021年5月号

 よんどころない事情で今年の3月末に大阪に数日滞在していたおり、今春は全国的に開花時期が早かったおかげで、四半世紀ぶりに満開のソメイヨシノを堪能することができた。

 日本一早い桜まつりが開催される沖縄とはいえソメイヨシノは観られないので、満開のソメイヨシノなどこの先一生観られないモノと諦めていただけに、感慨もひとしおだった。

  ここぞとばかりに見飽きるほどソメイヨシノを堪能して帰沖すると、出発前は1輪咲いていただけだった我が家の庭のアマリリスたちが、いよいよ旬を迎えようとしていた。

 我が家の敷地周辺は昔ながらの垣根で、ハイビスカスが年中花を咲かせている。

 おそらく樹齢は50年以上であろうそのハイビスカスの垣根は、この土地を借りることができるようになって以来とても気に入って、できればもっともっと花いっぱいにしたくなった。

 そこで旧我が家で増殖させていたアマリリスの球根を、ハイビスカスの根元に移植してみた。

 そもそもそのアマリリスは、これまた四半世紀くらい前に水納小中学校の校庭を大規模に整備した際、残土とともに島の裏手に打ち捨てられていたもので、そこから球根を4つほど救出して、旧我が家の庭に植え付けたのが始まりだ。

 廃棄物として捨てられていたアマリリスながら、丹精しているうちにいつしか大増殖し、旧我が家がまだ健在時に現我が家に移植できるほど増えていて、それからさらに15年以上経った今、我が家周辺のアマリリスはおそらく1000株を超えていると思われる。

アマリリスという名前はわりと有名にもかかわらず、実際に花の姿形をキチンと認識しているかというと、どうもその知名度ほどではないらしい。かくいう私も、アマリリスといえば丈の低い白くて可憐な花、と思い込んでいたため、初めてアマリリスの実物を目にしたときには、抱いていたイメージとのあまりのギャップに愕然としたものだ。どうやら小学校の音楽の授業で習ったエーデルワイスの歌とアマリリスの歌がごっちゃになってしまい、アマリリスはエーデルワイスの花のイメージで上書きされていたようだ…。

 毎年春になるとそれらが一斉に花の時期を迎えるのだから、花でいっぱいにしたい…という願いは春限定ながらそれなりにかなえられている。

 アマリリスを育ててみると、一つの球根から数個の若い球根が分結するので、それを取り分けて植え付けるだけで、翌年には花が咲くくらいに成長が早いことがわかった。

 そこにほんの少し手を加えてやれば、ねずみ算式とまではいかずとも相当な勢いで増やすことができる。それで調子に乗ってしまった結果が1000株以上のアマリリス、というわけだ。

 原産地の中南米あたりではもともと90種くらい確認されているアマリリスは、どんどん品種改良されて現在園芸品種は数百種にものぼるという。

 日本には江戸末期ごろに西欧から持ち込まれたそうだ。我が家のアマリリスは江戸末期に持ち込まれたものとほぼ同じ色形で、おそらく日本における園芸品種としての歴史はかなり長いと思われる。

 沖縄でももちろん昔から人気のある花で、南国原産だけに気候がピッタリだからだろう、開花時期を迎える春にDIYセンターに行くと、様々なアマリリスの球根や鉢植えが売られている。

 そしてその値札を見たとたん、思わず我が家のアマリリスの資産価値(?)を計算してしまった…。

 今年は季節の巡りがキチンとしていたからか、ほとんどすべての花々が一斉に開花期を迎えた我が家のアマリリスたち。

 青空に映える赤や斑入りの花々は島の人にも好評で、通りすがりにプチ花見を楽しんでもらえたようだ(でも球根をもらって自分でも育てようというヒトは、残念ながらいない…)。

 亜熱帯とはいえまだまだ肌寒い4月の沖縄で、ひと足早く南国ムードを演出してくれるアマリリスたち。

 中南米からはるばる海を越え世界に広まって数百年、今では沖縄の小さな離島にも欠かせない園芸植物になっているのだった。