●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2021年8月号
その頃島の連絡船もそろそろ新造船の計画を…というタイミングだったこともあり、他のほとんどすべての県内離島連絡船と同じく、水納海運も二つ返事で補助を申請する運びとなった。
もっとも、水納海運に順番が回ってきたのは県内ラスト近くで、晴れて島に新造船が就航したのが2016年のこと。
定員はほぼ従来どおりながら、船内はトイレも客室内の車椅子スペースもグーンと広くなり、バリアフリー仕様の立派な連絡船が堂々就航した。
ところが、砂浜にポツンと荷揚げ場が突き出した程度の水納港は従来のままだから、連絡船用バースも離岸接岸するためのスペースも以前のまま。
すなわち、ひとまわり大きくなった連絡船を運航させるには、あまりにも小さすぎる港になってしまったのだ。
それでもベテラン船長のテクニックひとつで、ありえないほど狭い泊地でなんとか新造船は通常運航していた。
しかしそれも昨年ベテラン船長が定年退職を迎えるまでのこと。
若い新人船長には荷が重すぎる狭い港では、ベテラン船長でさえ避けられなかった天候・海況にともなう欠航数は以後うなぎ上りとなり、北風のために座礁一歩手前になることもしばしば、そして泊地が浅すぎることも災いしてプロペラを損傷し、今年のドック入り期間は過去最長の40日(普通は長くて2週間)に及ぶことに。
そしてプロペラが直ったら直ったで再度の損傷を避けるため、日中に潮が大きく引く日にはどんなにベタ凪ぎでも欠航が相次ぐに至り、観光客はもちろんのこと、いよいよ島民の生活にも大きく支障をきたしてきた。
このままではいけない。なんとかしなければならない。
水納港の大々的な改築計画は以前から話だけはあるにせよ、今日明日で何かが始まるわけでもないとなれば、せめて大きくなった連絡船でも余裕を持って離岸接岸できるよう、泊地を拡大してもらうしかない(不思議なことに、連絡船を以前のサイズに戻せばいい、という話はどこからも上がらない)。
水納港にやって来た浚渫作業船。工期を定めてはいても、そこは沖縄のこと、台風その他で予定どおり作業が進まないことだってあるだろうし、そのままずるずると夏休みにまで差し掛かるのでは……と思いきや、どういうわけか7月上旬は近年になく抜群の好天が続き、順調に進んだ作業は7月上旬のうちに終了する運びとなった。これで欠航が減って島民生活が従来どおりになるのであれば、それはそれで結果オーライかな…なんて、終わってみれば能天気な思考になっている私なのだった。
という要請は、もちろんのこと新造船が就航する前からずっと役所に訴え続けてきた水納海運と水納班ではあるものの、沖縄県の担当部署は暖簾に腕押し柳に風。長いオフシーズンの間もついに何も手を付けることなく、今年もシーズンを迎えてしまった。
ところが、これでまた今シーズンも欠航だらけ確定か…と誰もが覚悟していたGWに、役所の担当部署発注による水納港浚渫工事計画が突如発動された。
工期はなんと6月下旬から7月一杯!
ダイビングはいわずもがな、その他沖縄の海を愛する人々にとって、梅雨明け後の7月上旬といえば、ベストオブベストの季節である。
冬の間ずっと眠ったままでいたくせに、島のかき入れ時がスタートするこの時期に工事だなんて、まさかの「狂気の沙汰」だ。
浚渫工事によって海が濁ってしまうのに加え、桟橋周辺が大規模工事現場となってしまうとあっては、当店としてはその期間中平気でご予約を受けるわけにもいかず、工期判明以降は新規にお受けしないことにした。
そこへもってきて沖縄県の緊急事態宣言ということもあり、もともといただいていた7月上旬のご予約は次々にキャンセルに
おかげで四半世紀ぶりくらいに、ベストシーズンにカメラを携え、思う存分のんびりゆっくりと水納島の海を楽しめている我々だったりする(もちろん収入はないけど…)。