●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2021年10月号
今やテレワークや在宅勤務には欠かせないネット環境。
思い起こせばその昔、ADSL回線利用が一般的になっていて、地域によっては光ケーブルも利用され始めていた頃、水納島で暮らす我が家の回線は、いまだISDNのままだった。
それしか選択肢がなかったのだ。
当時すでに主力商品のとんぼ玉を中心にネット通販をしていた当店にとっては、島内に簡易郵便局ひとつない不便さに加え、この貧弱なネット環境も大きなハンディキャップだった。
そんなおり、離島振興策の一つとして沖縄県が県内各離島のブロードバンド回線設置計画を進めることとなった。
都市部と離島で通信環境に格差がありすぎることに鑑み、学校を有する県内全離島をブロードバンド化するというインフラ整備事業だ。
この事業によってついに水納島でもブロードバンド化が実現したのが2008年のこと。
水納島では無線LAN方式が選択されたため、台風その他でときおり器具の不具合による通信途絶はあるにせよ、定額で利用無制限の高速ブロードバントを低価格で利用できるだなんて、それまでISDN回線だけだった身にとっては文明開化の音がするほど画期的なことだった。
ところがそれから12年経った昨年7月、その年いっぱいでブロードバンドのサービスを終了する旨が本部町役場から突如通知された。
この紙切れ一枚でライフラインを断ち切った本部町役場。ところがその後、町税関係の話では「確定申告はネットが便利!」などと平気で通知してくるのだから、これを理不尽といわずになんと言おう。ことほどさように、税の負担は公平でも、税による公共サービスには大きな格差がある沖縄県である。デジタル庁などが発足するのであれば、国もまずはIT先進国エストニアのように、国土全域に渡って同等の通信回線を整備するところから始めていただきたいものだ(画像が小さくて内容が読めないという方は、画像をクリック(タップ)していただくと、大きなサイズになります)。
事前に何のヒアリングもなかったので、まさに青天の霹靂である。
スマホの台頭によって需要が激減したことも手伝って、当初は島内で10世帯くらいあった契約世帯もそのころには実質的に我が家を含めた1、2軒だけになっており、たったそれだけの契約世帯のために本部町は老朽化してきた機器の維持管理に予算を割かねばならなくなっていた、という事情はある。
また、そもそも沖縄県が始めたこの事業計画の基準のひとつに「学校がある離島」と明記されているのだから、水納小中学校が休校になった途端の手のひら返しも仕方がないといえば仕方がない。
とはいえブロードバンド整備事業の住民説明会の際には
「今の世の中ではネット環境はライフラインです」
と謳っておきながら、たった紙切れ一枚だけの通知でそれを断ち切る本部町の感覚も相当なものではある。
本部町総務課課長名義のその通知によれば、
「近年の民間企業によるデータ通信製品の多様化の状況に鑑み…」
ということもサービスを終了する理由のひとつなのだそうだ。
そりゃあ、那覇あたりならいくらでも選択肢があることだろう。名護市でさえ選び放題かもしれない。
しかし光ケーブルなど来ていようはずはなし、WiMAXは電波が届かない、5Gっていったい何語?な水納島にあって、利用可能な「データ通信製品」はけっして多様化してはいない。
ともかくも本部町がライフラインを断ち切る前に、代替策を考えなければならない。
けれど調べれば調べるほど水納島ではあれもダメこれもダメで、結局モバイル用のツールをデータ使用量制限付きで日常的に使う以外に手はなく、これまでに比べると不便かつ圧倒的に経費がかさむようになってしまった。
こういうことは水納島に限らず日本の田舎ならどこでもあることなんだろうけど、今年から竹富島では光回線の利用ができるようになった、なんて話を聞くと、ようするに本部町役場のやる気の無さだけが理由なのではあるまいか、とも思えてくる。
行政の質さえ違えば、同程度の予算で今頃は水納島でも普通に光ファイバーを利用できていたかもしれない…。