●海と島の雑貨屋さん●

ゆんたく!島暮らし

写真・文/植田正恵

253回.どーするんだNTT!

月刊アクアネット2024年6月号

 昨夏は奇跡に恵まれた。

 昨夏の台風6号では本島では5日~6日間停電が続いた地域もあったというのに、水納島はただの一度も停電にならずに済んだのだ。

 一方、奇跡とは無縁の電話回線は暴風域に入る前から不通となり、その後電話線が地面に垂れ下がっているのもそのままに、ずっと放置状態に。

 本島各所も大変だったために手が足りないNTTが島まで修理に来てくれたのは、不通になってから実にひと月以上経ってからのことだった。

 海底ケーブルで島に繋がっている水納島の電話線は、今では大元から島内各所までのルートの随所で老朽化が進んでおり、要所要所の重要機器はだましだましで利用し続けている状態だという。

 そのため普段から原因不明でいともたやすく不通になることもしばしばで、昨年の我が家では、合計すると1年で60日近く不通状態になっていた。だからといって電話料金的に配慮してもらえるわけではないとなれば、まじめに「基本料金」を払い続けているのもバカらしい。

 そこで、30年来の付き合いになる固定電話の利用は昨年いっぱいをもって終了し、これまで夫婦2人でガラケー1台だけだった携帯電話をもう1台増やすことにした。

台風6号襲来で地面に垂れ下がってしまった電話線。台風が去ってからひと月以上、いつ修理に来るという報せも無いまま、ずっと放置状態になっていた。県内のあちこちが要修理状態になっていて、600人態勢でもまだ猫の手も借りたいほど…という事情もあるにせよ、いくらなんでもこれは放置しすぎでしょう、NTT西日本。よりによってそういうときに、旅番組のロケで女優の松下奈緒さんがカメラとともに来島された。島のメインストリートのこのありさまをご覧になって、「あら、電話線が垂れたままになってるわ…」とか言われながら番組で放送されちゃったらどうするんだ、NTT…。

 巷間謳われているスマホを利用した様々な便利さなど無くても暮らしにまったく不便を感じていないけれど、料金的に固定電話よりも安価で済むようなので、晴れて固定電話はスマホに変身したのだった。今さらながらのスマホデビューで、あれやこれやの使い方を覚えるべく、頭から白い煙を出しながら奮闘している…のは旦那だけど。

 たびたび固定電話が不通になるのは他の島の皆さんも同様で、90代のおばぁもついに固定電話に見切りをつけ、このたび携帯電話デビューをすることとなった。

 ただ、購入に合わせて本島在住の娘さんが来島し、携帯のいろはをおばあにゼロから伝授する予定だったそうなのだけど、あいにく連絡船が欠航見込みとなってしまい娘さんは来られず、携帯電話はあるけれど使い方がわからん…という状態に。

 折悪しく歩いて10歩ほどの近所で気安く頼れる方々がみな外出中だったため、やむなく遠い我が家まで携帯の手ほどきを受けにくるおばぁ。手軽に使えることを商品名で謳っているガラケーではあっても、何か触ってしまうと壊してしまうのではないか…と心配するあまり、ボタン一つ押すのも大変そうだ。

 もっとも、私自身もおばぁとさほど変わらぬ携帯理解力しかないので、その後アドバイザーはもっぱら旦那が務め、おばぁも何かあるとその都度我が家にやってくるようになった。

 でも90代のおばぁが歩いて来るにはいささか遠い我が家に足を運んでもらうのも…ということで、旦那は出張講義に行き、なおかつ基本的な操作ならひと目でわかるよう、イラスト付きの説明書きを印刷してお渡ししたりと、思いがけずおばぁと交流があった冬だった。

 その甲斐あって…といけばいいところながら、おばぁが従来の固定電話のようにガラケーを使いこなせるようになるまでには、まだまだ高いハードルがいくつも並んでいる。

 たとえ不通になってもすぐに回線修理に来てくれさえすれば、おばぁも固定電話に見切りをつけることはなかったことだろう。とはいえ過疎地域=クレーム数が少ない地域はあとまわしにするというのがNTTの本音のようだから、利用者が減る一方の離島に迅速に修理に来てくれるはずもなし。

 暮らしのためには90を過ぎてから携帯電話デビューをしなければならない、水納島の電話事情なのである。