●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2025年1月号
昨年(2024年)12月3日付の県内2大ローカル新聞の1面に、セグロウリミバエが沖縄本島中部で確認された、という記事が載っていた。
セグロウリミバエは体長1cmに満たない小さな昆虫ながら、ウリ科の植物の果実に卵を産み付け、育った幼虫が実に害をなす典型的「害虫」で、海外から侵入したものだという。
水納島が属する本部町ではその2か月ほど前にすでに確認されていたらしい。さらに本島中部でも確認されたということは、今後全県的に蔓延する可能性が高まったということでもあり、1面トップになるあたりに高い緊張感と危機感がうかがえる。
なにしろウリ科といえば、沖縄を代表する野菜であるゴーヤーはもちろん、トウガン、カボチャ、キュウリ、スイカ、メロン、ヘチマなどなどかなり重要な農作物が属している。
農家にとっても消費者にとっても、大変危機的な状況になってしまったことは間違いない。しかも栽培植物だけでなく、野生のカラスウリの仲間にも寄生するというから、農作物だけの対処では増殖を防げないかもしれないところが厄介だ。
20世紀の沖縄では、ウリミバエの蔓延が長く続いていた。東南アジア原産のウリミバエは日本の侵略的外来生物ワースト100に選定されているウリ科の植物の害虫で、沖縄本島では1972年に分布が確認され、やがて全県的蔓延状態なってようやく不妊虫放飼法(放射線を照射して不妊化したメスを放つ)による根絶事業が開始された。
学生時代にこのウリミバエ根絶プロジェクトの経緯についてリアルタイムで学ぶ機会があり、今でも記憶にきちんと残っているくらいものすごく印象深いものだった。
根絶事業の模様はその後NHKのプロジェクトXでも取り上げられたというから、関係者の苦労は相当なものだったであろうことがうかがい知れる。
亜熱帯の気候では夏場に露地栽培できる野菜の種類は限られている。そのため写真のゴーヤーのほか、ヘチマ、トウガンなどウリ科の植物は沖縄の家庭菜園では欠かせない存在だというのに、それらの栽培を自粛しろと言われても…。セグロウリミバエ蔓延対策として県はさっそく不妊虫放飼を開始するというけれど、昔に比べてモノの移動がたやすい今の世の中のこと、その蔓延は予想を超えて早いかもしれない。蔓延防止のために家庭菜園での生産自粛を余儀なくされるくらいなら、いっそのこと蔓延しきって再び県内消費限定になったほうが、気兼ねなく自分で作れるようになって家計的には助かる…なんていう悪魔の囁き声も聞こえてくるのだった。
その努力の甲斐あって、ウリミバエについては1993年に根絶宣言が発せられた。
根絶される以前は沖縄を訪れる観光客が持ち帰ることができないものとして各種ウリ科の作物がラインナップされていたし、郵便局にも本土に送ってはいけないという注意喚起の貼り紙があったほどで、県民は県外で暮らす子や孫に故郷の味でもあるゴーヤーやヘチマを送ることすらかなわなかった。
それが農家も個人も晴れて本土に出荷できるようになったのだから、まるで沖縄代表の高校が甲子園大会で優勝したかのような歓喜に包まれたのは言うまでもない。
ちなみにウリミバエは、侵略的外来生物ワースト100の中で現在のところ唯一根絶が成功した例で、総事業費は204億円、根絶までの累計放虫数は625億匹にものぼったという。
当時を記憶している世代はまだまだ現役だから、今般の新型ウリミバエ登場には相当な戦慄が走ったことだろう。今のところまだそこまで深刻な状況ではないようながら、早くも本部町の広報誌では、現状と発見した場合の対処法を伝えていた。
そして私にとってはかなりショックなことに、家庭菜園でのウリ科の植物の栽培を控えるようにとのお達しも…。
あくまでも禁止ではなく奨励レベルであるところが微妙ではあるけれど、ゴーヤーやヘチマその他ウリ科植物といえば、沖縄の気候では真夏の露地栽培で採れる主力野菜。それらが作れなくなると、諸式高騰の世の中でますます値上がりするであろうスーパーの野菜のために、我が家の家計はたちまち破綻してしまうかもしれない…。