全長 100cm(写真は40cmほどの若魚)
フエダイといえばカラフルなものが多いなか、小さな頃から地味なものもいる。
バラフエダイもそのひとつだ。
そして成長すると1mにも達するオトナも、5cmにも満たない小さな幼魚も、彼らはけっして群れることがない(水納島では)。
……と思ったら、同じ種類では群れないかわりに、他の群れにうまく紛れ込んでいる。
上の写真では、そろそろ周りの魚よりも大きくなってきているために紛れ込んでいる感が薄れているけれど、これよりも小さな頃は、どうみてもスズメダイにしか見えない姿形をしている。
これは3cmほどの幼魚で、サイズといい色柄といい……
ササスズメダイやカブラヤスズメダイ、またはタカサゴスズメダイなどスズメダイ類チビターレにそっくり(写真の子はタカサゴスズメダイ?)。
それを自分でもわかっているのか、バラフエダイのチビターレは、何食わぬ顔をしてスズメダイたちに混じって泳いでいるのである。
じっとしていると、どちらも似たり寄ったりの可愛い魚という雰囲気ではある。
しかしバラフエダイチビがひとたび本気を出すと、どでかい口があんぐりと開く。
精一杯口を開けてもおちょぼ口が筒状に突き出るだけのスズメダイたちとは違い、肉食系丸出しの大きな口を持つバラフエダイチビターレ。
何食わぬ顔をしつつ、きっとスズメダイのチビターレを食べているに違いない。
このチビチビがやや成長すると、少しずつスズメダイっぽさが消えていく。
さらに成長すると……
いよいよフエダイっぽくなってくる。
この時点ですでにヨスジフエダイのオトナほどのサイズになっているけれど、バラフエダイにとってはまだまだケツの青い小僧くらいのもの。
フエダイ類のなかでは相当大きな部類のバラフエダイは、40〜50cmほどになってもなお若者なのだ。
ただしこれくらいになると、体色に赤味がついてくる。
1mほどの巨大なオトナに出会ったことはこれまでに数えるほどながら、アカナーという方言名で呼ばれる理由が海中でもよくわかるほどに赤く見えた記憶がある。
ところでこのバラフエダイ、オトナは大きいし食べ応えはありそうだし、重要な食用魚…
……かというと、これが残念ながらそうではない。
この魚はシガテラ毒を持っているのだ。
食べるとけっこう重大な食中毒を起こすシガテラ毒は、体内で生産されるものではなく、餌に含まれているものが蓄積されるのだという。
フエダイ類の多くはヨスジフエダイに代表されるように食材として広く利用されているというのに、なにゆえこのバラフエダイに限ってシガテラが蓄積するのだろうか。
その秘密はきっと、スズメダイのフリをしながら過ごしている若い頃にあるに違いない。
それはともかく、我々が水納島に越してきてから何年もの間は、バラフエダイといえばせいぜい20cmほどに育ったかどうかくらいのものばかりで、1mのオトナはもちろん、40〜50cmほどのものすら滅多にお目にかかることはなかった。
ところが近年は、40〜50cmほどのものならリーフ際などで比較的よく出会うようになっている。
その前後でバラフエダイにとって環境的に変わったことといえば……
あ。
本部町在でずっと長い間一人追い込み漁をしていたおじぃが亡くなったんだった。
健堅の漁港から小舟で水納島のリーフ際までやってきては、一人で追い込み漁をやっていたそのおじぃ。
その獲物の中に、ひょっとするといいサイズに育ったバラフエダイも混じっていたのかもしれない。
おじぃが亡くなってから、リーフ際の魚たち、特に食用サイズの魚の増加が顕著だから、バラフエダイもまた同じ理由である可能性はかなり高いように思われる。
……って、おじぃ、バラフエダイは沖縄でもシガテラ毒注意魚なんだけど??