水納島の魚たち

デルタスズメダイ

全長 6cm

 ひところスズメダイがマイブームになっていたことがあった。

 すでにデジイチ時代になっていたので、昔撮った写真にもなにか居ないかなぁ…なんて呑気にスズメダイ類でまとめてあるポジフィルムのファイルを探していたら……。

 ん?なんだこれは??

 見慣れぬスズメダイを発見してしまった。

 フィルムマウントに記入してあるデータによると、撮影は2004年5月、場所は中の瀬だったらしい。

 水深は書かれてはいなかったものの、中の瀬ということからして、きっと深い場所だろう。

 さっそく調べてみると、どうやらデルタスズメダイらしい。

 ちなみに当時最強だったヤマケイの「日本の海水魚」という分厚い魚類図鑑には、デルタスズメダイの名前は載っていない(写真は載っている)。

 フフフ…さすが俺、2004年の時点で、すでにこんなスズメダイに気づいていたではないか。

 ……と不敵に笑みを浮かべつつ、フィルムマウントを見てみると、そこにはしっかり

 「シコクスズメダイ」

 と書いていたのだった…。

 < ダメじゃんッ!!

 ま、いずれにしても、個人的新発見というのは、なにも海中でとは限らないのである。

 それにしても、当時のワタシがシコクスズメダイとあっさり間違えたのも無理はない。

 両者をはじめ、フカミスズメダイオナガスズメダイをくわえた4種はそっくり。

 ガンダムにまったく興味がない方がザクもグフもドムも見分けがつかないのと同じく、彼らに興味がなかったら、まず間違いなく同じ魚に見えることだろう。

 でも、よぉ〜く観るともちろん違いがある。

 念のために違いを記しておくと、体後半部の白部分の入り方で区別できる。

 とはいえシコクスズメダイやオナガスズメダイがいるような場所にはデルタスズメダイはいない。

 彼らはけっこう深い場所が好きなようで、ドロップオフが途切れるあたりの深い海底で稀に観られる程度だ。

 ところが何を血迷ったのか、ある時砂地の根に生えている枝サンゴに、群れる系のスズメダイに混じってたった1匹だけデルタスズメダイがいたことがあった(冒頭の写真)。

 周りが白い砂底環境で明るいからだろうか、岩場で観られるものよりも薄い体色をしていた。

 体色はともかく、サンゴの枝上にいるデルタスズメダイの写真なんて、ひょっとすると本邦初じゃなかろうか。

 何があったのか知らないけれど、デルタスズメダイが砂地にいることもあるんだなぁ(深いけど…)。

 さほど時をおかずに再訪したところ、残念ながらこのデルタは姿を消していた。

 やはり本来の生息環境ではなかったのだろう。

 一期一会、おそらく二度目は無いだろう……

 ……と思っていたら。

 2016年の秋、チビデルタ登場!

 再び砂地のポイントで、それも水深23mほどにある根だった。

 なるほど、デルタスズメダイって、チビの頃はおビレ付け根に黒帯が入っているのか。

 5日後に再訪してみると、まわりにいるナガサキスズメダイなどにいじめられつつも、チビデルタは健気に頑張っていた。

 結局そのシーズンの最後まで居続けてくれたチビデルタ、シーズン終了から2ヶ月経った12月に様子を観に行ってみると……

 健在!

 発見当初に比べれば、なんだかちょっぴりたくましくなったような気もする。

 その後は翌年正月3日までは確認できたのだけど、残念ながらシーズンを迎える前には姿を消してしまった。

 3ヶ月ほどの短い付き合いではあったものの、これまで4個体しか観たことがないデルタスズメダイのなかで、このチビデルタが最長不倒記録保持者だ。

 それも砂地の根で。

 まさかの出会いも、ダイビングの魅力のひとつでもある。

 次の「まさか」はなんだろう?