(ハリメダ・ゴーストパイプフィッシュ)
全長 8cm
そこで潜れば必ず訪れる、という場所が各ポイントごとにいくつかある。
なぜだかピンスポット的に何かアヤシゲな生き物と出会う機会にちょくちょく恵まれると、さらなる次のドジョウ狙いで訪ねる頻度が増すのだ。
やがてそれが習慣になって、何がいるわけじゃなくともついつい立ち寄ってしまう。
2017年の秋のこと。
とあるポイントのリーフの狭間も普段よく立ち寄る場所で、その年のシーズン中はそれまで特に何がいたわけじゃなかったから、これといって目当てはないままいつものごとく立ち寄ったオタマサが、こういう魚を見つけていた。
ここはサボテングサという石灰質藻類の1種がなぜだか狭い範囲に繁茂しているところで、そのサボテングサに慎まし気に寄り添うように佇んでいた。
当時はホソフウライウオなどという存在は忘れ去っていたし、どう見てもニシキフウライウオでもないから、カミソリウオの色彩変異のひとつなのだろう……と即座に思い込んだ。
ところが後刻調べてみると、これはまだ和名がつけられていないカミソリウオ属の1種で、種小名の halimeda をそのままに、「ハリメダ・ゴーストパイプフィッシュ」と通称されているものであると判明。
ゴーストパイプフィッシュというのはカミソリウオ類の英名だから、ハリメダカミソリウオということになる。
ハリメダってなんね?
またぞろ、生き物の特徴を知るうえでなんの手掛かりにもならない人名由来の名前なんだろうか……
…と思いきや、このハリメダ=halimeda というのはサボテングサをはじめとする石灰質藻類の総称のことだった。
このカミソリウオ属の1種は、ほぼサボテングサ専門の擬態職人らしいのだ。
サボテングサとは、このような海藻。
丈10cmほどで、現在ではリーフ際の水が淀むような狭間でショボショボと観られる程度ながら、昔の水納島では、砂地のわりと深いところで1m四方くらいの群落が随所で観られたものだった。
そんな群落に注目すると、時には不思議的エビ・カニがついていることもよくあった。
甲羅自体がサボテングサの葉にそっくりで、なおかつ頭の先にサボテングサの葉をつけている芸が細かなコノハガニ。
ハリメダ・ゴーストパイプフィッシュも、芸の細かさでは負けてはいない。
その各ヒレなど、サボテングサの葉の形にそっくり。
石灰質藻類であるサボテングサは、加齢(?)が進むと葉の縁が石灰化して、白い縁取りが現れる。
驚くべきことに、ハリメダ・ゴーストパイプフィッシュは、体色をサボテングサの経年劣化に合わせるという。
この時出会った子の各ヒレにも、まるで海藻が石灰化したような白縁がある。
石灰化模様である白いラインが出てきている状態ということのようだ。
さらにサボテングサの石灰化が進んで藻の寿命を迎える頃には、緑色だった部分はすべて白くなる。
やがて群落全体で白が目立つようになるのだけれど、擬態職人ハリメダ・ゴーストパイプフィッシュもまた、サボテングサの劣化に合わせて体を真っ白に変えてしまう。
その真っ白になったサボテングサのそばで真っ白になっているハリメダ写真をネット上で拝見したワタシ。
そこで、この子がサボテングサに合わせて色を変えていく様を追跡調査した……
……かったのだけど。
あいにくこの日この時発見時に出会えたのみで、その後再会を果たすことはできなかったのだった。
群落が小さすぎて、カモフラージュ効果が薄かったか??
やがて国内で採集されて「日本産」として正式に認められれば、「ハリメダカミソリウオ」なんてことになるんだろうか?
いやいや、広く浸透していたのに消えてしまった和名「フウライウオ」の復活のチャンスかも。