水納島の魚たち

ヘラルドコガネヤッコ

全長 10cm

 和語が並ぶはずの和名にヘラルドだなんてつくと、なんだかジェームス三木とかマイク真木といった名前を聞いた時にふと感じる胡散臭さがある。

 が、この名は学名がこの人名にちなんで名付けられていて、そのまま安易に和名にしてあるに過ぎない。

 ヘラルドさんのコガネヤッコ、という程度の意味だ。

 胡散臭いのは名前だけで、海では普通に、特にリーフ際の転石ゾーンなどで多く見られる魚だ。

 よく似た魚にコガネヤッコというのがいて、こちらは中部太平洋を主な生息地にしている関係で小笠原などで見られるようながら、沖縄では極めて稀である。

 そのため慣れないころは、ヘラルドコガネヤッコを見るたびに

 「コガネか!?」

 「コガネか!?」

 「コガネだろ!?」

 と、しつこいくらいに注視してしまう。

 このヘラルドは成長とともに目の回りが黒ずんでくる個体が多いから、海中で見ると目の周りが青いコガネヤッコのような錯覚をしてしまうのである。

 ちなみに、残念ながらというか当然ながらというか、ワタシはこれまで一度としてコガネヤッコを沖縄で観たことはない(他所での観察例はある)。

 その点ヘラルドは個体数が多いから、どれほど節穴の目をお持ちの方でも必ずダイビング中に出会える。

 初夏になると幼魚もガレ場で数多く観られ、親指の爪サイズのチビターレはやたらとカワイイ。

 これが成長すると、目元に黒ずみが出てくる。

 眼の周りが黒くならない個体もいる。

 一方、黒ずみの濃淡にも個体差があるようで、なかには↓こんなに黒くなる子もいる。

 「コガネか!?」になってしまうタイプでもある。

 ところで、ハギの仲間の中には、アブラヤッコ属の仲間のフリをするものがいる。

 モンツキハギクログチニザもその代表選手だ。

 両者ともにオトナは似ても似つかないけれど、その幼魚はパッと見ヘラルドコガネヤッコそっくり。

 なので彼らニザダイ類チビターレは、ヘラルドコガネヤッコに寄り添うようにして行動を共にすることがある。

 左上がモンツキハギの幼魚。

 ペアになっているヘラルドコガネにも寄りそうのは、クログチニザの幼魚(真ん中)。

 モンツキハギとクログチニザもそっくりなので紛らわしいけど、モンツキハギの尾ビレの縁はまっすぐなのに対し、クログチニザはラウンドテール。

 アブラヤッコ属の真似をするという意味では、尾が丸いほうがよりそっくりになるのだから、クログチニザのほうが目的意識(?)は高いのかも。

 追記(2020年4月)

 数が多いわりには警戒心が強いヘラルドコガネヤッコながら、時には果敢に戦いを挑むこともある。

 ある時ヘラルドコガネヤッコが、尾ビレをウリウリ動かす妙な素振りを見せていたので注視してみると……

 サビウツボをイジメていたのだった。

 この直前に彼はホンソメワケベラのチビにクリーニングケアを受けていたのだけれど、間の悪いことにそこにサビウツボが顔を出してしまったのだ。

 せっかく心地よくケアを受けていたヘラルド氏、邪魔をされた腹いせなのか、サビウツボに対し執拗に尾ビレで攻撃を加えていた。

 追記(2020年6月)

 アカハラヤッコの稿の追記で触れているように、四半世紀ぶりにこの時期にサンセットダイビングができているおかげで、小型ヤッコ類の産卵シーンを観ることができた。

 アカハラヤッコ同様に個体数が多いこのヘラルドコガネヤッコたちも、日没ちょい前からあちこちでやる気モードになる。

 オスがメスの腹部に口元をつけて、産卵へと誘う。

 当初こそタイミングをはずしまくったものの、何度も産卵してくれるからだんだんタイミングを掴めてきたこともあり……

 惜しい!

 あとコンマ3秒くらい前にシャッターを。

 また別のペアがナズリングを始めた。

 今度こそ……

 タイミングはバッチリ!

 でもいかんせん、遠すぎた(写真はトリミングしてます)。

 日没ちょい前くらいからほんの20分ほどがピークとはいえ、前述のとおり個体数が多いからそこかしこで産卵を繰り広げてくれる。

 ただ、観ているワタシのほうがなにせ久しぶりなため、いろんな魚に目移りしてしまって、アワアワしている間に日没サスペンデットゲームになってしまうのだった。

 もっと場数をこなして、ジャストタイミングを狙わなければ。

 次なる「追記」を待て。