(イスズミの仲間たち)
全長 50cm前後(写真は25cmほどの若魚)
日本の海で観られるイスズミ属の魚は現在、
の4種類が知られている。
でまたこれがハタンポ類と同じで、種ごとにいろいろ特徴は述べられてはいるものの、瓜二つどころか瓜四つくらいのそっくり度だ。
なにしろずっと昔から知られていたミナミイスズミですら、紆余曲折を経つつ今世紀になってあらためて新種記載という形で学名が改められているほどだから、ハタンポ類同様我々シロウトが海中で観ただけ、撮った写真を見くらべるだけで区別がつくわけがない。
いつまで考えても悩んでも結論が出ないことに頭を使っている場合ではない当サイトとしては、潔く(?)彼らを「イスズミの仲間」、略して「イスズミ」として扱うことにした。
ザ・イスズミという意味ではないので、そのあたりご注意ください。
分類的にはオキナメジナとけっこう近いイスズミたちは、水納島の砂地のポイントの場合、観られる場所もオキナメジナたちに近い。
ただしイスズミたちは時にリーフエッジ付近で群れ集い、けっこう大きな群れを作っていることもあるし、若魚たちがリーフエッジで元気に群れていることもよくある。
大きくなればなるほどなかなか近寄らせてくれないイスズミたちなので、群れに近づくことがなかなかできないのだけれど、場合によってはリーフエッジ付近で呑気にたむろしていることもある。
で、こうやって集まっている時の彼らって、全員同じ種類なんですかね?
体色の濃淡が変わるのはいろいろな魚たちで観られるし、ヒレだって閉じたり開いたりしたらフォルムが変わって見えるのもわかるとして、上の写真の手前の黒い子とひとつ奥の黒い子は、顔つきまで違って見えるんだけど……。
図鑑等では、イスズミ類の見分け方のポイントとして、口が尖っているとか短いということも述べられているものの、もしこの両者が同じ種類だなんてことになったらどうしようもない。
このようにリーフエッジ付近で群れていることもあるイスズミは、単独で過ごしていることもあって、冒頭の写真のように暗がりにいるアカマツカサたちと一緒になっていることもあれば、リーフの上を1匹で颯爽と泳いでいることもある。
単独でいるものはほぼほぼ若魚で、20cm〜30cmくらいのものが多い。
ときにはリーフ上で、グループがのんびり過ごしていることもある。
どの種類であれこのように横から見ると、パッとしない色彩の地味な魚たちというイメージが勝るイスズミたち。
ところが少しでも前側から観てみると…
ちょっぴりゴキゲンな顔になる。
さらに前から観てみると…
たいそうゴキゲンな顔に。
横から見た無表情めいた様子から一変、なんだかこちらまで楽しくなってくるような顔で見つめてくるイスズミたちである。
イスズミに注目するダイバーはほとんどいないけど、この顔を見逃す手はない。
そんなスマイリーイスズミが、ある時リーフの上でかなり大胆に油断ポーズをとっていた。
イスズミ、ひときわスマイリー……と思ったら、ホンソメワケベラのクリーニングケアを受けていたのだ。
こういうときでもないとこんなところでジッとしてくれないイスズミなので、これ幸いとばかりに近寄らせてもらった。
すると、どういうわけだか上層で群れていたアオバスズメダイたちの一部も、イスズミの周りに集まってきた。
そしてアオバスズメダイたちは集団で、本職のホンソメワケベラ顔負けのクリーニングケアを始めた。
以前にミゾレチョウチョウウオを集団でクリーニングするアオバスズメダイたちを観たことがあるけれど、その時はみんな幼魚サイズだった。
でもイスズミをケアしているのは、みなさんオトナ。
オトナのアオバスズメダイもまた、クリーニングをすることがあるんだなぁ……あ、アオバスズメダイの稿に追記しとかなきゃ。
それにしても、滅多に見せないアオバスズメダイのクリーニングまで受けているこのイスズミ、相当の人気者なのか、はたまた介護度合いの高いクライアントだったのか……。
リーフ際付近でフツーに観られるのは若魚サイズ以上のものばかりで(成熟巨大オトナも観ないけど…)、幼魚の姿をこのような場所で観ることはない。
彼らイスズミたちは、外洋の流れ藻などに身を寄せて漂流する幼少時代を過ごしているのだ。
ただ、風のイタズラで彼らが身を寄せているものがリーフ際に流れ着いてくることもある。
日本全国の工事現場で雨の日も風の日も立ち続けている三角コーンも、まさかこのような役割を果たすことがあろうとは夢にも思っていなかったことだろう。
この三角コーンに……
…イスズミのチビたちの姿もあった。
5cmちょいのチビと一緒に、3cmほどのチビターレもいる。
不鮮明な写真で恐縮ながら、チビターレの頃は白点模様があるらしい。
こうやって外洋を旅した果てにリーフ際にやってくるんだもの、そりゃあいろんな種類が一緒に暮らしていたって不思議ではない……ってことか。
※追記(2021年11月)
外洋を旅する暮らしを送っているから、そうそうダイビング中には会えないはずのイスズミ・チビターレ。
ところが2021年シーズン最終盤に、2cmほどのイスズミチビチビたちが桟橋の波打ち際に登場した。
同じタイミングで桟橋脇に大集合していたアミモンガラのチビチビ軍団と同じく、大量に漂う軽石を拠り所にしていたのだろう。
その後軽石にはえらい目に遭わされているけれど、災いだけでなく、滅多に会えないチビターレとの出会いという小さなシアワセも運んでくれているのだった。