水納島の魚たち

クビアカハゼ

全長 7cm

 共生ハゼはダイバーに人気のある魚のグループではあるものの、ヤシャハゼヒレナガネジリンボウといったスターとは違い、脇役人生を歩み続けているもののほうが多い。

 このクビアカハゼも、水納島ではそんな脇役のひとりだ。

 リーフ際から砂地になるまでの、水深10m前後の礫混じりの砂底のそこらじゅうで観ることができる。

 ヒメダテハゼミナミダテハゼに比べれば、なかなか赤帯が鮮やかで派手なのだけど、海中では赤色が真っ先に吸収されるため、残念ながらこの模様が黒っぽく見えてしまう。

 となると、なまじそこかしこにいるだけに、冴えない礫混じりの海底にいる地味なハゼね…でスルーされてしまうことになる。

 でも一望砂底が広がるところにいるハゼと違ってリーフ際が主だから、巣穴の近くに礫が転がっていることが多く、小石の上にチョコンと乗っている姿はとってもカワイイ。

 小石の上に乗っていると、フツーに全身をさらけ出しているので、容易に全身をくまなく見ることもできる。

 そのあたり、肝心の尾ビレを巣穴に隠してもったいぶるヤノダテハゼに比べれば、クビアカハゼたちはよっぽど親切だ。

 肉眼では地味に見えるとはいえ、目立つといえば目立つ柄だし、光を当てて撮った写真をつぶさに観れば、とてつもなく美しい。

 ちなみに↑これはメスで、オスは背ビレの一部の鰭条がピヨンと長く伸びる(冒頭の写真)。

このようにアップで観ると、白と赤だけではなく、散りばめられたブルースポットが輝いていることがわかる。

 その色柄は、環境によってかなんなのか、赤色部分がやたらと明るいものがいる。

 また、赤い帯の幅が明らかに白い部分よりも広いものもいる。

 そんなクビアカハゼは、コシジロテッポウエビやモンツキテッポウエビと暮らしている。

 通常はこれくらいの体格差なんだけど、子供の頃にオトナのエビさんと出会ったクビアカハゼ・チビターレは………

 ちょっと背伸びしすぎでしょ…的なアンバランス感が。

 本種に限らず共生ハゼは、チビハゼにはチビエビ、というケースと、チビハゼにオトナエビ、というケースはあるけれど、巣作りの都合上、当然ながらオトナハゼにチビエビという組み合わせはない……はず。

 4月以降水温が少しずつ上がってき始めると、仲良くペアで外に出ている様子を目にするようになる。

 手前側がメスで、奥がオス、そして巣穴の出入り口は画像左下にある。

 こうして見ると、オスはいかにも「あたりの警戒はオレにまかせろ!」とばかりに雄々しく見える。

 でも実際は、これよりもう少しカメラが接近してくるとオスはすぐさま身を翻し…

 …真っ先に巣穴に逃げこむ。

 オスにとって長生きのためには、三十六計逃げるに如かず。

 それはそれで、実は逞しいことなのかも?

 追記(2025年3月)

 ダテハゼ系のフォルムをした共生ハゼたちは、海底にチョコンと鎮座しているというイメージがあるけれど、なかにはヒメダテハゼやヤノダテハゼのように、ホバリングを愛好しているものたちもいる。

 そんなホバリング愛好会に、クビアカハゼも加入していることをご存知だろうか。

 本文中でも紹介しているように、クビアカハゼは死サンゴ礫が多い浅い海底でよく観られ、礫の上にチョコンと乗ってあたりを見渡していることが多い。

 そのクビアカハゼが、海底から30センチほど離れたところまで垂直上昇してしばらく静止するという、実に見事なホバリングをしているのを目にした…

 …のは、もうかれこれ10年ほど前のこと。

 出会い頭の思いがけないシーンだったため目にしただけで終わってしまったから、その後クビアカハゼのホバリングシーンを記録に残すべく注目してみたものの、ヒメダテハゼのホバリングとは違い、続けざまに何度もやってくれるものではないらしい。

 その後も1〜2度は目にしたことがあったような気がするけれど、残念ながらレンズを向けるチャンスはなく、一度も画像に残せたことはなかった。

 ところが昨年(2024年)の梅雨時に潜っていた際、ふと目をやった礫底で、クビアカハゼが…

 …ホバリング中!

 ああしかし、遠めから慌てて撮ってしまったヘナチョコ写真のため、なんだか奥の石ころの上に着底しているようにも見えてしまう。

 言い訳がましく説明すると、実際は海底から30cmほど高いところまでほぼ垂直に上昇し、すべてのヒレを広げてピタ…と静止しているところ。

 このままの姿勢でけっこう長い時間静止してくれていたから、慌てず騒がずもう少し近寄って撮ればよかったのだろうけれど、なにぶん10年越しのチャンスゆえすっかり浮足立ってしまい、結局これだけで終わってしまった…。

 クビアカハゼは着底したあとも引き続き様子を観ていたら、礫の上にチョコンと乗って今にも再びホバリングしそうな仕草を見せてはいた。

 ところが待てど暮らせど再び舞い上がることはなく、けれど結局ホバリングは最初の一度きりで、その後は巣穴近くに身を移し、エビちゃんのためのワッチ任務という通常モードになっていた。

 というわけで、10年越しのチャンス!と盛り上がったわりにはヘナチョコ画像のみながら、おそらくそれほど知られているとは思えないクビアカハゼの垂直上昇ホバリング、そしてほとんど世の中に出回っていないと思われるクビアカハゼのホバリング中の画像。

 たまたま当ページにお立ち寄りになり、知られざるクビアカハゼのジジツをいともたやすく知ることができたアナタは果報者である。