水納島の魚たち

ニライカサゴ

全長 20cm

 ニライカサゴはオニカサゴ属の魚である、ということを、このオニカサゴの仲間たちをまとめていた際にあらためて知った。

 どちらかというとオニダルマオコゼっぽいからそっちの仲間かと勝手に思い込んでいたのだ(オニダルマオコゼは分類項目の科の段階で異なるまったく別グループ)。

 似たような種類にサツマカサゴがいて、我々がダイビングを始めた頃(80年代後半)は、ニライカサゴはサツマカサゴと混同されていた。

 そんな時代にスルドイ視点で両者を区別したのが、オニカサゴの仲間の稿でも紹介したタコ主任である。

 彼の卒論によってサツマカサゴとは別種とされたこのカサゴは、その後現在とは異なる和名が提唱され、そのまま新和名となった。

 ところが言葉狩りが横行する21世紀の社会になって、差別的表現が含まれているとされる魚の名前がことごとく当たり障りのない和名に変更された時期があり、このカサゴもその際に現在のニライカサゴという和名に落ち着いた(沖縄の宗教観に欠かせないニライカナイのニライが由来)。

 なので、当初の和名がつけられて以後、ニライカサゴに変更される以前に刊行されている図鑑には、昔の名前で出ています by 小林旭。

 さてこのニライカサゴ、逢いたいからといっていつでもどこでも会えるわけじゃないけれど、遭遇する機会はわりと多い。

 ただしジッとしていると岩のようだから、初心者ダイバーさんは気がつかずにうっかりむんずと掴んでしまい、毒のあるヒレの棘に刺されるかもしれない。

 冒頭の写真はまるでパンジャの子のように真っ白だけど、これはおそらく脱皮直後のためで、フツーの状態はこんな感じ。

 妙に苔むしていると、↓こんな色になっていることもある。

 このように画面の中に大きく入れてさえ岩のように見えるくらいだから、視野の端にポツンといるだけだと、気がつかないヒトもいるかもしれない。

 さて、ニライカサゴは↑この写真の中のどこにいるでしょう? 

 ジッとしていると石や小岩のようで見つけづらいのは砂底環境でも同様だけど、砂底の場合は転石ゾーンと違ってニライカサゴとの遭遇頻度が増える。

 というのも、たとえその時はジッとしていても、彼らがそこに至るまでの過程が、↓このようにちゃんと残されているから。

 この小さな写真じゃわかりづらいものの、這い跡が続く右上端っこにニライカサゴがいます。

 這ったばかりだと鮮度高く跡が残っているから、この這い跡をたどれば本体にたどり着ける、というわけだ。

 このような跡を残す移動の仕方とはどういうモノかというと……

 上の動画のように、ジワリジワリと這い進んでいく。

 繁殖期だからなのか、初夏以降の夏場はこのように2匹で連れだって散歩していることがわりとあって、桟橋脇などでもその様子が観られることがある。

 ミジュンが群れている下で、美味しそうだなぁ…と見上げながら仲良くペアで散歩しているニライカサゴたち。

 もっとも、ニライカサゴのペアだと知っているからこそ魚に見えるけど、ミジュンの群れに見とれていたら、目の端の石ころにしか見えないかもしれない。

 このようにジッとしていれば見つかる心配はなさそうだし、そもそも有毒のこの魚に襲い掛かるプレデターなんてのもそうそういなさそう。

 ところが彼らには、身を守るための一発芸的防御手段がある。

 胸ビレを一瞬だけパッと広げ、その裏側の派手な色を瞬間的に見せつけるのだ。

 その様子はヤラセで観ることができるから、ゲストにご覧いただく機会は多い。

 しかしその写真を撮るとなると、ヒメオニオコゼのデビルウィングと違って広げているのは一瞬だけに、ヤラセ演出と撮影とを1人で行うのは至難のワザ。

 ところが、あるとき例によって2匹がズリズリと午後の散歩を仲良く楽しんでいたときのこと(↓2匹がどこにいるかわかりますね?)。

 緑っぽい藻に覆われているほうが先で、赤っぽい藻に覆われているほうがついていっている状況。

 砂底ではなく転石ゾーンだったので、山あり谷ありを上下に進むニライカサゴのペア。

 でも上り下りが面倒になったのか、先を行くミドレンジャーは、いきなりワープして谷を泳いで渡った。

 このとき泳ぐ際に使用するからか、ミドレンジャーは胸ビレを開きながらピロピロさせているではないか。

 しまった、絶好のチャンスだったのに!

 ん?

 ミドレンジャーが先を急いだということは、後に続くアカレンジャーもきっと同じように泳ぐに違いない。

 すると……

 アカレンジャーもスイミング!!

 ああしかし。

 願ってもないチャンスだというのに、上から撮らずに横から撮ってしまった……。

 でもチラ見えながら、胸ビレ裏側のそのハデハデぶりをおわかりいただけよう。

 危険を感じた際にパッと広げるときはホントに一瞬なので、この派手な色が目くらまし効果になるのかもしれない。

 ともかくもこのように毎夏デートをしているくらいだからちゃんと繁殖も行われているようで、小さな個体に会うこともたまにある。

 カモメ岩の浜のインリーフで潜った際には、小指ほどの体長のチビターレに会った。

 チビとはいえこれくらいに育っているとフォルムはほとんどオトナ同様ながら、岩なんだか苔なんだかわからないオトナたちのゴツゴツ感に比べればよっぽどカワイイ。

 ちなみにニライカサゴの目には皮弁があり、オトナも子供もなにげにオチャ目さんだったりする。

 なんだかハルク・ホーガンが上を見上げながら、両腕の上腕二頭筋を見せつけているシルエットのよう……。

 瞳の上に皮弁はあっても、ニライカサゴの目の上には突起は無い……

 …と思っていたところ、過去に撮った写真を見ていたら、↓こういうものもいた。

 別の種類ってことはないですよね?

 その突起が肥大化しているとしか見えないものも。

 これはさすがに別の種類かなぁ……。

 ひょっとして、かつてニライカサゴと同一視されていた元祖サツマカサゴとか?

 ↓これもひょっとするとサツマカサゴか??

 ニライカサゴがこのようなポースをとるのを観たことがなかったので不思議に思って撮った記憶があるんだけど、うーむ…見れば見るほどサツマカサゴに見えてきた。

 またカサゴ博士のタコ主任に訊いてみようッと。