水納島の魚たち

スミツキベラ

全長 20cm(写真は4cmほどの幼魚)

 スミツキベラも、子供の頃とオトナとでは体の模様がまったく異なっている。

 チビの頃は冒頭の写真のように黒地に白い点々模様で、なおかつ暗がりにいることが多いため、漠然と暗がりを観ているとうっかり見逃すくらいに目立たない。

 たとえ魚だとわかっても、いったいどこに目があるのやらまったくわからない配色だ。

 幼魚はリーフエッジ下のオーバーハング状になっている部分の陰など、昼でも暗いところでよく観られ、岩肌の付着生物をつつく一方、わりと熱心に他の魚をクリーニングすることもある。

 パッと見は白黒で可愛いけれど、アップで観るとそこはタキベラの仲間、4cmほどになるとけっこうふてぶてしさも垣間見える。

 成長するにつれ黒地は薄くなっていく一方、体後半は白地になってきて、やがてまったく異なる体色に変身する。

 白い点はすっかり消え去り、代わりに黒い点が要所につくオトナのスミツキベラ。

 この黒い点が、「墨付き」ということなのだろう。

 この両者がオトナと子供であるなどとはおいそれとは信じがたいところながら、幼魚模様を残しつつオトナ模様になりかけている姿を観れば一目瞭然。

 ただし幼魚がオトナ模様になり始めるスイッチは、体のサイズのほかにも周囲の環境も大きく作用しているようで、上の写真のオトナになりかけている子はほんの4cmほどでもうこの姿だというのに、とある砂地の根で暮らしている幼魚模様の↓この子ときたら……

 写真だけみたら3〜4cmほどの幼魚のように見えるけれど、傍を通った25cmほどあるアカマツカサ(?)のオトナと比べてみると……

 …優に10センチを超えていることがわかる。

 サイズだけでなくその行動もほとんど「オトナ」で、エサをついばんではブヘッと吐き出す様子など、ふてぶてしさすら感じるほど。

 それならとっととオトナ模様になっちゃえばいいのに、なんでわざわざチビターレ模様のままでいるんだろうか。

 ひょっとしてこのまま一生幼魚模様のままなんだろうか……。

 ところが2ヵ月ほど経った頃に、ちょっとした変化が。

 体後半部が薄くなってきていたのだ。

 遅まきながら、オトナへの階段を上り始めたらしいスミツキベラ・ジャンボチビターレ。

 いったい何がスイッチになっているんだろう?

 その後順調にオトナ模様になったらしく、すっかり姿を見かけなくなった。

 オトナになる前からジャンボなこの幼魚はともかく、オトナ模様になってもまだ10cmくらいだとリーフエッジからさほど離れないので、日中は暗がりでジッとするタイプの魚たちには、オトナになっても「クリーナー」として認識されているらしい。

 スミツキベラがそばを通るだけで……

 思わず反射的にクリーニングを求めるべく口を開けるアカマツカサ(の仲間)。

 本家必殺掃除人のホンソメワケベラほど熱心ではないようながら、普段からそれなりにシゴトをしているのか、アカマツカサがクリーニングをおねだりしてスミツキベラを追いかけるほどだ。

 オトナになってもクリーニングをするスミツキベラとはいえ、それはせいぜい10cmちょいくらいまでの小ぶりなオトナまでのことで、20cmほどになった立派なサイズのオトナはクリーナーを卒業する……

 …のかと思いきや。

 水深10mに満たない死サンゴ石ゴロゴロゾーンをウロウロしていたところ、すぐそばでニジハタがやたらと大きく口を開けたままジッとしていた。

 何をしているんだろう?

 実は、撮る直前までスミツキベラにクリーニングしてもらっていたのだ。

 それも、施術者はニジハタとほぼ変わらないサイズの老成スミツキベラだ。

 スミツキベラというよりも、こうなるとコゲツキベラと呼びたくなる雰囲気。

 20cmは優にある貫禄サイズのスミツキベラでさえ、クリーニングをすることがあると知ってたいそう驚いた(クリーニングしているところは撮れなかった…)。

 それにしても、小さな幼魚ならともかく、10cmちょいのオトナでさえ、その口は↓こんな感じ。

 自分と変わらぬサイズの魚のこんな口でクリーニングされて、心地いいものなんだろうか。

 同じ仲間のタキベラの老成魚がクリーニング……なんてのは、願い下げだなぁ。

 追記(2020年10月)

 近年はリーフ際にアカヒメジが群れるようになってきているのだけれど、のんびりリーフ際で群れているアカヒメジたちに、ときどき…いや、かなりの率で、スミツキベラが一緒に混じっていることがある。

 彼はけっして自らがアカヒメジだと勘違いしているわけでもなければ、その習性を活かしてアカヒメジ全員にクリーニングを施そうというサービス精神を溢れさせているわけでもないのだけれど、ずっとずっとアカヒメジの群れにつきまとう。

 スミツキベラももともとそういうところを暮らしの場にしている魚だから、さほど気に気に留めてはいなかった。

 ところがスミツキベラがアカヒメジの群れに混じっているのには、明らかな理由があった。

 それは…

 ウンコ待ち!!

 アカヒメジがウンコ(写真下方でバラバラ…となっている白いもの)をするのを待っているのだ!

 群れているアカヒメジは、群れの誰かが必ずウンコをする。

 するとすぐさま身を翻し、そのウンコチェックをするスミツキベラ。

 もっともウンコはウンコなので、そのほとんどが食べるに値しないもののようながら、中には未消化の「掘り出し物」があるらしい。

 そーゆーモノを狙って、スミツキベラはずっとアカヒメジの群れにくっついているのだ。

 このジジツに気がついて以来、アカヒメジと一緒にいるスミツキベラに注目していると、誰も彼もがウンコ待ちをしていた。

 どうやらこれは、彼らが遺伝的に既得している行動らしい…。

 鋭い牙付きの立派な口でゲットできるエサが他にいくらでもあるというのに、糞尿専門生活で恥ずかしくないのか、スミツキベラ。

 スミツキベラは逞しい。