全長 13cm
灯火(ともしび)とはまたわびしいというか味があるというか、暗闇の山奥にポツンと光る民家の灯……って趣きだ。
その背ビレ後端のオレンジ色を、そういう灯に見立てているらしい。
ただしこのオレンジ模様には個体差があって、もっと大きめの「灯」になっているものがいれば…
…灯りが消えたものもいる。
これが個体差による常態なのか、モードによって変わるのかはよくわからない。
いずれにせよ、儚げなわびしさを感じさせる「ともしび」。
でも。
このトモシビイトヒキベラの海中での様子は、どうしてどうして、そんな灯火という語感とは程遠い。
同じ場所で観られる他のイトヒキベラ類に比べるとオスのサイズはキングサイズといってよく、実に堂々として見えるのだ。
ゴシキやニシキと同じく、クロヘリイトヒキベラと同じようなところにいることが多いこのトモシビイトヒキベラは、やはりゴシキやニシキと同じくけっして数は多くはないけれど、それなりにハレムを形成する程度には個体数はいる。
なかでも大きなオスはよく目立つ。
遊泳中はたいがい背ビレ尻ビレを閉じているものの、流れてくる餌をパクつくときやメスに対してアピールするときなどには、冒頭の写真のようにヒレを広げる。
これがまた、閉じているときとはうって変わってかっこいい。
ちなみに、↓これが閉じているとき。
なんだか冴えないでしょ?
メスはオスに比べると色彩的にもフォルム的にもおとなしめだ。
数の上ではこのメスのほうが多いのだけど、慣れないうちは…というかザクとグフの違いがわからないという方には、クロヘリイトヒキベラと区別がつかないかもしれない。
たとえ区別がつかなくとも、キングオブイトヒキベラなオスがメスを相手にブイブイ言わせてくれれば、その相手がトモシビイトヒキベラのメスであることがわかる。
ピンボケながら手前がメスです。
チビターレはオトナたちとは違い、リーフ際の死サンゴ礫ゴロゴロゾーンの底付近でチラホラ観られる。
15mmくらいまでの小さい頃は、体の色がピンクでカワイイ。
2cmほどになると…
…体の色が黒っぽくなってくる。
チビターレたちもまたクロヘリイトヒキベラのチビターレに混じっていることが多いのだけれど、ピンクの頃も黒っぽくなっても、小さな白い点々がライン状になっているから見分けるのは容易だ。
もう少し成長すると…
ここからもう一段階成長している子は…
随分メスっぽくなってきている。
ご存知のとおりイトヒキベラ類もメスからオスへ性転換する魚だから、この子も場合によってはキングオブイトヒキベラ級のオスの容姿になるかもしれない。
オトナも子供も、彼らが暮らしているのは特殊な場所でもなんでもなく、船を停めたすぐ下にいるということもたびたびで、おまけに他のイトヒキベラ類同様縄張りはそれほど広くはないから、オスたちがメスに対してアピールしている様子を観るチャンスも多い。
にもかかわらず、彼らの存在が明らかになり始めたのは90年代のことで、97年に刊行されたヤマケイの「日本の海水魚」では、トモシビイトヒキベラはオスの写真がたった1枚掲載されているのみ。
なんだかんだいいつつ、多くの人々からスルーされ続けていたんだろうなぁ、リーフ際のベラたち……。