全長 15cm(写真は8cmほど)
サンゴ礁の外縁、いわゆるリーフエッジは、リーフがオーバーハング状になってグンと張り出しているところもあって、その張り出しの下側は昼なお暗い日陰ゾーンになっている。
その天井付近にはイボヤギがビッシリ群生していることもあり、夜間や分厚い雲が空を覆っている時の日中には、黄色いポリプが一面に咲き誇っていて花畑のようになる。
ある時そんなイボヤギ群生オーバーハングを覗いてみたところ、あいにくイボヤギはまったく開いてはいなかったかわりに、アヤシゲなシルエットが見えた。
これがカエルアンコウだったら面白いのになぁ…と期待値ゼロ状態で凝視してみると、なんと本当にカエルアンコウの仲間だったから驚いた。
ちなみに冒頭の写真は実際の天地を逆さまにして魚の正位置に合わせているもので、本当は↓こういうふうに見える。
けっこう広い暗がりにこんなものがいたとしても、今のクラシカルアイではとうてい気がつかないだろう。
当時のワタシを褒めてあげたい。
さてこのカエルアンコウの仲間、少なくともオオモンやクマドリ、そしてイロのいずれでもないことはすぐに分かった。
それはわかったけれど、では何カエルアンコウ?
すでに富士フィルムが沖縄から撤退していた当時のこと、撮り終えたポジフィルムを街の写真屋さんに持っていって、それからそのお店である程度溜まってから九州の現像所に送る、という段取りだったため、撮影後数か月経ってようやく現像が上がってきた写真を確認したところ、腰のあたりに目立たない斑紋があることから、きっとベニカエルアンコウだろうと見当をつけた。
このオーバーハング裏のイボヤギの花園に随分長い間居てくれたところをみると、ここは彼にとって誰にも邪魔されることのない良好な餌場だったのだろう。
たしかにリーフエッジにはキンギョハナダイやキホシスズメダイの幼魚が数多く群れており、オーバーハング裏にも同じように群れていることが多いから、エサに困ることはまったくなさそうだった。
長期に渡ってほぼ同じ場所に居てくれたおかげで、その間ちょくちょくゲストにご案内することができたベニカエルアンコウ……
……と思っていたら。
その後世に出た吉野雄輔氏による「日本の海水魚」(2008年刊)を見ていると、このカエルアンコウはどう見てもウルマカエルアンコウに見えてきた。
そしてさらに世の中便利になって、ネット上でウルマカエルアンコウのことをいくらでも調べられるようになったおかげで、「エスカが丸い」というウルマカエルアンコウの特徴のひとつも知ることができた。
この写真のカエルアンコウのエスカ部分を拡大してみると……
たしかに丸い。
そうだったのか、彼はウルマカエルアンコウだったのか。
ベニカエルアンコウ(当時はベニイザリウオと呼んでいた)とご案内したゲストのみなさん、この場を借りて訂正させていただきます。
正体が判明した頃には件のウルマカエルアンコウはすっかり過去の話になっており、以後再会はまったく果たせていない。
聞くところによると、そもそもウルマカエルアンコウはこのような昼なお暗いところや狭いところが大好きらしく、他のカエルアンコウ類のように、日の当たる場所にポッと鎮座してくれることはまずないという。
クラシカルアイでは薄暗いところをクリアに観るのはキビシイだけに、今後偶然の再会は期待できそうにない…。