水納島の魚たち

イトマンクロユリハゼ

全長 8cm

 幼魚は初夏になると砂地に集団でいるのを見かけることがある(ような気がする)んだけど、オトナとなると水納島ではなかなか出会う機会がないイトマンクロユリハゼ。

 イトマンクロユリハゼに雰囲気がよく似ているヒメユリハゼときたらすっかりその名を忘れていたくらいだから、水納島では観たことがないはず(他の場所ならあるのかどうかは定かではない…)。

 ところが、このテの青く細長いハゼをマイブームにしていた2014年の一時期に、海神様がそっと手を差し伸べてくれた。

 やたらと集まっているオグロクロユリハゼに混じって、たった1ペアだけオトナのイトマンクロユリハゼがいることに気がついたのだ。

 似たようなフォルムのスミゾメハナハゼリュウキュウハナハゼと違い、オグロクロユリハゼやイトマンクロユリハゼは、ホバリングしているところのすぐ下にオンリーワンの巣穴があるわけではないらしく、どちらかというと本家クロユリハゼのように、わりと広い範囲を移動する。

 ということは近寄ると逃げていくわけで、逃げて逃げて逃げて最終的に巣穴に逃げ込む、ということになる。

 オグロクロユリハゼの場合はそこらじゅうにいるものだから、逃げて行ったら次はこっち、それも逃げたら次はあっち……とやっているうちに終わってしまう。

 ところが1ペアしかいないとなると、「目移り」しようにもできないおかげで、ストーカーのようにしつこくつきまとうことになる。

 すると、その巣穴と逃亡ルートはそれほど広い範囲ではないことに気づく。

 ただし泳いでいる時の彼らを撮ったところで、ヒレを閉じているから冴えない姿になってしまう。

 でも彼らの行動範囲を把握したうえでじっくり観察していると、やがて気を許した彼らがヒレを広げる姿も拝むことができる。

  泳いでいるときはただの細長い青いハゼが、ひとたびヒレを広げれば「ノックは無用!」の魅惑の変身コーナーもかくやというほどに、魅力あふれるステキなフォルムになるのであった。

 ………フォンテーヌ♪

 追記(2023年11月)

 毎年初夏くらいになると、砂底には細長く青い系のハゼのチビチビたちが現れる。

 そのほとんどはオグロクロユリハゼとスミゾメハナハゼで、たまにイトマンクロユリハゼも混じっているようなのだけど、それがオトナになるまで成長することはほとんどなく、夏を過ぎた頃には姿が見えなくなる。

 ところが一昨年(2021年)には、10月末まで生き残り、しっかりオトナのペアになっているイトマンクロユリハゼがいた。

 今年(2023年)はどういうわけか、初夏頃からイトマンクロユリハゼのチビチビが多かった。

 しかも例年とは違い、そもそも分母が多かったからかなんなのか、今年はほぼほぼオトナになるまで成長するものも多い。

 これまでは滅多に遭遇チャンスがなかったイトマンクロユリハゼなのに、そこかしこでペアになっているほどに。

 2人でいるとキモチにゆとりが生まれるのか、アクビをしてくれることもしばしば。

 ちなみにイトマンクロユリハゼも、他のダートゴビーの仲間たちと同じく、アクビは波動砲型だった。

 仲良しペアが随所で観られた今年。この調子で増えていくと、近い将来はオグロクロユリハゼなみにたくさん観られるようになるのだろうか?

 追記(2026年3月)

 その後も毎年春からイトマンクロユリハゼのチビがドッと増え、夏場には各所で若魚のペアが観られるようになっているのだけれど、今のところどうしても冬を越せるものは少ない。

 冬になるまでは若魚のペアがたくさん観られても、真冬になると姿を消して、翌春には全然会えない…というパターンが続いているのだ。

 2025年もやはりチビターレが湧いてきて、夏場には若魚が随所で観られていた。

 でも秋になる頃にはその数はかなり減って、パートナーにも事欠くようになってしまうのだろう、その年の10月初めには、こういうシーンが観られた。

 画像で見ると上の2匹と下の1匹は明らかに異なる種類に見える色合いながら、海中で観ているとほぼ同じ色に見える両者。

 そのためてっきりスミゾメハナハゼの若魚が3匹いるものとばかり思って撮ってみたら、1匹はイトマンクロユリハゼだったことに気がついた次第。

 これがオトナのペアであれば、同種であれ他種であれスミゾメハナハゼはかなり排他的になるから、身を寄せようとするイトマンクロユリハゼなどたちまち追い払われてしまうところ。

 でもスミゾメたちもまだ若魚だから、3匹仲良く行動を共にしていた。

 もともとはもっと数多かった若魚集団が、10月になってこれだけになってしまった…というところだろうか。

 青く細長いダートゴビー系は、幼魚の頃から若魚の頃までは可能なかぎりの数で集団で暮らしており、その社会にはいわゆる「ヘイト」は無いから、若いうちは種を問わずひとつのグループになっていることが多い。

 なかでも多いのがオグロクロユリハゼで、どれほどこのテのハゼに興味がない方であろうとも、必ず目にしているであろうこと間違いなしってくらいにたくさんいる。

 たくさんいるから生存率も高く、いざペアになろうという年齢(?)に差し掛かれば同種のパートナーに困るはずはない。

 ところがその月の半ばには、こういう組み合わせが観られた。

 イトマンクロユリハゼとオグロクロユリハゼのペア。

 たまたま2匹が同じところに居合わせた…というわけではなく、ずっと行動を共にしている様子はどう見てもペア。

 成長するにつれ個体数がだんだん減ってくるイトマンクロユリハゼなら、相手に巡り会うことができずに仕方なく…というともありそうに思えるけれど、そこらに同種がたくさんいるオグロクロユリハゼの場合、わざわざイトマンクロユリハゼをパートナーにする理由など無さそうなのに…。

 オグロクロユリハゼたちにもいろいろあって、メンタル上どうしても同種をパートナーに選ぶことができず、むしろイトマンクロユリハゼと共にいるほうがしっくりくる…

 …というセクシャルマイノリティオグロなのかもしれない?

 はたして二人の恋の運命やいかに。