水納島の魚たち

シチセンムスメベラ

全長 15cm(写真は2cmほどの幼魚)

 日本の海では、カンムリベラ属の魚は5種類知られている。

 まだ見ぬムスメベラをはじめカンムリベラ属の魚たちは、カンムリベラツユベラスジベラと、みなさんクドクド四の五の言わないシンプルな名前ばかり。

 ところがこのシチセンムスメベラだけは例外的に説明調なので、仲間内では最も地味なのにやけに浮いて見える。

 そして説明調の名前のわりには、ムスメベラには似ても似つかないし、いったいどの線を数えれば七線なのかシロウトにはさっぱりわからない意味不明の名前でもある。

 仲間内で浮いている名前とは裏腹に、チビターレの姿はカンムリベラ属の魚のなかでは際立って地味地味ジミー(冒頭の写真)。 

 これくらいチビ(2cmくらい)の頃には尾ビレの付け根付近にもうひとつ眼状斑があるので、合計4つ眼状斑がある。

 眼状斑が多いのはともかく、光を当てた写真で観てこそたくさん見える赤い点々は、実際に海中で観る分にはまったくわからず、おまけにうっすらと藻が生えた砂礫ゾーンにいるために、隠蔽効果抜群=まったく目立たない。

 これがもう少し成長して4cmほどになると……

 体じゅうに散らばっていた赤い点々はお腹側だけになり、尾ビレ付け根付近の眼状斑は消える。

 まだ地を這うように泳いでいるから隠蔽効果は抜群で目立たないこと甚だしいけれど、岩肌に付着している獲物を狙うその目はなかなか凛々しい。

 これくらいの幼魚は死サンゴ礫転石ゾーンから砂地の根の縁まで観られるのに対し、水納島の場合オトナが暮らす場所は、砂底が始まるところまで広がる水深10m前後の死サンゴ礫転石ゾーンがもっぱらだ。

 オトナのシチセンムスメベラは水温が低い時期でも行動は大胆で、すぐそばで見ていても平然と泳ぐしエサも漁る。

 食事の際は、同じような場所でエサを探しているヒメジの仲間についてまわっていることも多い。

 4〜5cmくらいの幼魚同様背ビレに眼状斑が3つあるのがメスの特徴のひとつと解説してされている図鑑もあるけれど、水納島のメスは真ん中の眼状斑だけを残し、他は消失しているもののほうが多い気がする(時期にもよるのかも)。

 それはつまりオスではないのかというところながら、お腹がほんのり赤いのもまた、メスの特徴のひとつでもあるのだ。

 ではオスはというと……

 お腹には赤味がなく、黒っぽい。

 メス認定の子よりもひとまわりほど大きくて、1匹のメスと一緒にエサを探している風に見えて…

 ほどなくこの場にそのメスを残し、ツー……と居場所を変えると、そこにはまた違うメスがいる。

 5m四方、もしくはそれ以上の範囲に、配下のメスが何匹かいるらしい。

 雌雄を問わずどこが七線なのかわからない模様は、濃淡こそ変えるけれどもその色味はさほど目立たず、暮らしぶりも地味なものだから、その存在を意識したことがあるダイバーは多くはないに違いない。

 でもヒメジ類の食事中にはついてまわるし(写真はオオスジヒメジ)…

 ゴマモンの食事の際にも、やはりおこぼれ狙いでちゃっかりいるくらい……

 ……なにかというとチョロチョロしているので、覚えているかどうかは別にして、目にしたことがないという方は逆にかなり少ないと思われる。

 撮ったことはないという方でも、ひょっとしたら他の何かを撮った際に一緒に写っているかもしれないシチセンムスメベラなのである。