全長 60cm
いわゆる「ガーラ」と総称される系のアジ類のなかで、夏の水納島で最もお馴染みのものといえば、このカスミアジをおいてほかにない。
体形的には他の似たようなアジ類と変わらないように見えるけれど、その体表には細かな黒と青の点々模様が散在しており、特にブルースポットはよく目立つため、他種と見分けるのはたやすい。
小魚たちの魚影がガクンと落ちる冬場にはなかなか見られないけれど、スカテンや各種群れる系の幼魚たちがドンと増える夏場になると、それらを求めてカスミアジ御一行が現れるようになる。
マックスサイズの巨群には会えないものの、10cmそこそこのチビが多数群れてリーフ際を颯爽と通過して行ったり…
20cmほどの若衆がツムブリと一緒になって大集団で表層を往来している様はなかなか見事だ。
でも水納島でダイビング中に観られるカスミアジといえばせいぜいこれくらいのサイズで、太公望垂涎の50cm超級のオトナには、桟橋での釣果以外で目にしたことが無い。
ちなみにカスミアジの幼い頃から若い頃は、体表の点々が無いか目立たないかわりに、胸ビレが黄色く目立つという特徴がある。
この胸ビレの黄色は成長とともにだんだん薄くなっていくようだから、撮影時の記憶が薄れ、どれくらいの大きさだったか思い出せなくても、胸ビレの色を見ればサイズの見当がつく。
なので、同じリーフ際にいるカスミアジでも……
↑これはまだ20cmくらいの若魚で……
↑こちらはマックスサイズではないにしろ、30cm超のオトナであることがわかる。
そういえば、今でこそこのように大きめのカスミアジにも会えるようになっているけれど、昔はカスミアジといえば通りすがりの若魚集団くらいのもので、砂地の根でカスミアジを観る機会はほとんど無かった。
ところがいつくらいからだろう、スカシテンジクダイが根を覆う季節になると、30cm前後のカスミアジたちが群れなして襲来し、思う存分暴れ倒しては去っていくという、映画「荒野の七人」に出てくる盗賊団なみの暴れん坊ぶりを発揮する様子が毎年観られるようになってきた。
夏場になると多くの根で群れるようになるスカシテンジクダイを求め、根から根へと渡り歩く盗賊団カスミアジは、遠方からまっしぐらに根を目指し、ロックオンするやただちに襲撃を開始する。
圧倒的体格差があるうえに数にモノを言わせているので、根に襲い掛かった彼らはやりたい放題だ。
逃げ惑う小魚たちを嘲笑うかのように、隅々まで入念に追いかけまくるカスミアジたちは、興奮モードになっているせいか、すぐそばにいるダイバーをまったく気にせず襲撃に没頭する。
↑この時などは、カメラの手前50cmほどを、ワタシの存在などまったく意に介することなく猛然と駆け抜けていった。
ハタ類の稿で紹介してるように、根にはその社会の公序良俗安寧秩序を守るべく、ユカタハタやアザハタなどがゴッドファーザー的存在になっているから、このような襲撃があると、彼らゴッドファーザーは、果敢に追い払おうとする。
しかし多勢に無勢、ユル・ブリンナーがどれほど優れたガンマンであっても、1人では盗賊団には勝てないのだった。
このような盗賊団カスミアジの襲撃は、たいてい3匹〜5匹くらい、10匹もいれば「おお…」と目を見張るくらいだった。
ところが5年前(2015年)の夏はどういうわけかカスミアジの数が多く、各地に盗賊団が出没していて、時には盗賊団が力を合わせ、大連合を作ることもあった。
これほどの数の群れにこのように執拗に襲撃されれば、そりゃスカテンやキンメモドキの数もすぐに激減しちゃうだろうなぁ…。
ハナダイ類の稿のコラムで紹介している、近年のハナダイたちの外傷個体増加の一因かもしれない。
こうして群れなして襲撃するときはカスミアジオンリーであることが多い一方、少数で行動している時は、時として同じ目的の他の魚と共同戦線を張ることもある。
お相手として特に相性がいいのか、マルクチヒメジと一緒になって小魚を襲撃する様子をよく目にする。
オジサンの仲間のマルクチヒメジは、オジサン同様ヒゲを使って砂中のエサを探す一方、遊泳して中層を泳いでいる小魚を狙うこともよくあって、スカテン狙いで訪れたこのサンゴ上では、枝間に隠れたスカテンを執拗に追い求めていた。
カスミアジとマルクチヒメジはたまたまこの場で出会ったわけではなく、来るときも去る時も、一心同体少女隊、ずっと行動を共にしていた。
だからだろうか、小魚狙いとは思えない礫底での餌探しの際でも、行動を共にする両者。
マルクチヒメジのサーチングに驚いて、石の下から飛び出てきた小魚狙いってところだろうか。
このようにして底モノの味をしめるようになるからか、ヤッコエイにピッタリつき従っているカスミアジもいる。
カスミアジの普段の食性とヤッコエイのそれはちょっとばかし違うような気がするのだけど、底モノの味をしめると、ヤッコエイが砂をボイボイ掘り出す際のおこぼれも御馳走なのだろう。
中層から底モノから、なんでも食べられるとなると、カスミアジたちはますます増加していく……
…と思いきや、今年(2020年)はここ10年間で最も「カスミアジアタック」を観る機会が少ないような気がする。
7月が終わるまで一度も台風に襲来されることが無かったおかげか、例年になく各種幼魚が多く、根を覆わんばかりに小魚たちが群れているから、けっしてエサ不足というわけではないだろうに、いったいなぜだろう。
彼らの増減がそれくらいの単位の周期的なものなのだとしたら、これからしばらくはハナダイたちの平和な時代になるかもしれない?
※追記(2021年11月)
2021年シーズンは、再びカスミアジアタックを目にするシーンが増えた。
しかもナンヨウカイワリを随伴(↓矢印)するようになり、その攻撃力をますますアップさせている盗賊団である。